10 J Kコンビ

「ショウちゃん!」


 会場の事務所に到着すると、目の前で、前髪を暖簾にした姉、フミカがほっぺたに両手を当てて、僕のことをかなり心配している。


「かどさん、ありがとーう!」

 フミカが門脇さんの両手をとって、お礼を言うと、門脇さんはダークスーツがくすんだように真っ赤な顔をして、アスファルトを見ながら、フミカへ僕を手渡した。


「ショウちゃん! だいじょうーぶ?」

 フミカはジーンズにTシャツという、そこらにいるオタクとなんら変わらない格好で相変わらず前髪で顔を隠して、その上に麦わら帽子をかぶっている。


 背格好は、僕のほうが頭一つ分高い。フミカの麦わら帽子のつばが僕の胸にぶつかって、跳ね返るように背後へ落ちた。

 それを門脇さんが、何事もなかったように拾って、あたりを警戒する。


「門脇さんが、いなかったら、トラウマ再現だったかも」

 僕は恐ろしくなって、言うと、脇から青いワンピースを来た小柄なかわいらしい女の子が、申し訳なそうにひょっこり顔を出す。


「甘イズムです。さっきは、ごめんなさい!」

「え、ええ! えええ?」

 この僕より年下に見える、小さな女子が甘イズム先生?

「甘噛みゾンビの?」

「いつも、ご視聴いただいちゃって、ありがとうございます!」

 甘イズム先生は、その小さく華奢な体を折り曲げて、平身低頭すると、僕の視界から消えてしまった。


 ギョーカイでも、一部の人としか交流を持たず、その徹底した秘密主義ゆえ、かなりのエゴイストでもあるという噂の絶えない甘イズム先生が、今、僕の視界から隠れたように、深くお辞儀している。

 綺麗な面立ちをして、小柄な体の脇に立つ、暖簾髪のフミカのほうが、どちらかと言えば、得体の知れない漫画家に見える。


「二人は、知り合いなの?」

「知り合いも、知り合い。だってー、同じクラスだもん」

「え! じゃ、甘イズム先生て、高二のJ Kだったんですか?」














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