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 門脇さんが運転するワンボックスカーが我が家にたどり着いた。

 甘イズム先生とフミカが揃って、我が家に入ってくるのは、夢見心地がした。


 夢見ごごちのまま、フミカの部屋へしけこむように入っていって、二人は戸惑う僕の背中を促した。


「フミカから、ずっと弟のことが心配って相談受けていたの」

 甘イズム先生はいい辛そうに言った。

「弟のためにー 漫画かいてくれなーい?________ って」

 フミカが甘イズム先生の頭にもたれながら言った。


「あ、漫画家としては、すでにデビューしてたのね。フミカから教えてもらったショウマ君が好きそうな世界観でかいてったら、思いのほか、いいものができちゃって。そしたら私より、担当がすごく興奮しちゃって、『これは、既存のゾンビを打ち破る新しいゾンビスタイルです!』みたいな」


「そうしてえー 『甘噛みゾンビ』の甘イズム先生、降臨______ みたいなあ」

 フミカが他人事のように言うと、甘イズム先生は呆れ顔して、外の景色に目をやった。


「フミカ、ずっと気に病んでたんでしょ? ショウマ君の顔が自分とそっくりで、イジメられてきたの。それで、いまだに引きこもっちゃってるって」


 学校でまで、フミカが僕のことを気に病んで、引きずっているとは夢にも思っていなかった。


 甘イズム先生が、ずっとフミカが内緒にしてきたクローゼットを開いた。

 ぜんぶ、コスプレの衣装で溢れかえっている。


「フミカがコスプレ始めたのって、ショウマ君を立ち直らせたいからだったんだよ」

「僕を、立ち直らせる?」

「そう、その前髪暖簾の世界から、ショウマ君に出てきてほしい。もっと、

広い世界で、楽しく自由に羽ばたいてほしいって。君には、その資格があるって」

「資格?」

「私もさっき、君の顔を見てその資格を確信しちゃいました。君には、甘噛みゾンビのコスプレをして、世界に羽ばたいてもらいます」

「なんで。そうなるの?」


 フミカがそっと僕の前に立って「いーい? ショウちゃん」

「なにが、いいって?」

 フミカにそっと、前髪暖簾を巻き上げられると、フミカは持っていたヘアピンで僕の前髪を挟んだ。


 ポッと、甘イズム先生の小顔の美顔に赤みがさす。

「万能」

 そんな一言が飛び出して、先生の小顔を満足させる。

「ショウちゃんはー ヒロイン役の柑橘類にもなれるしー 柑橘類に思いを寄せるー 橘木立たちばなこだちにも、ななーんと、なれちゃい、まーす」


「ショウマ君には、一人で二役を演じてもらうから、そして、ゆくゆくは、実写版に、そしてハリウッドに、そしてアカデミー賞のレッドカーペッドにと、うふふ」


 


















 

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