7 逃亡

 慌てて逃げ出す僕の後ろ姿がアップされている。

 しかもじゅんなにそっくり?

 

 どういうこと?って、僕の顔っていまだにじゅんなである姉フミカと瓜二つだったんかい!


 フェスの会場を足早に去る僕を、スマホ見ながら本人認証する目たちと出会す。

 やばい、ここで逃げ覆うせないと。

 小学校の時、フミカと瓜二つだった僕は、すっかりトラウマになってしまった出来事を駆けながら反すうする。


 風が耳をびゅーと打ってゆく。汚れたかつらを被らされて、フミカが出演していたドラマのセリフを言わされた。

「似てねえー」

 演技までは指導を受けてないので、似ても似つかなかった。

 そんなモノマネをやらされているうち、「ヘヘ」といやらしい目をした悪ガキに胸を揉みしだかれた。

「やわらか!」

 

 そう、僕は男にしては、胸がちょっとばかり隆起している少年だった。

 そんな体の特質が姉、フミカと見まごうばかりの容姿に、僕を完成させてしまった。

「じゃあ、あそこは、どうなってんだろ?」


 無理矢理ズボンを下ろされ、何匹もの雄どもの好奇の目を浴びた。


 いやだ。

 もう、ぜったいあんな思いするのなんて。

 

 こんなじゅんなのフェス会場で、じゅんなにそっくりな僕が見つかったら?


 さっき、サークルから飛び出して、じゅんなに飛びついていった落武者ヘアの男が足を引きずりながら、スマホを見つめている。


 僕はパーカーを更に目深に被って、自分を守った。


「あ! おい、君!?」

 

 背後から声をかけられる。ぜったい振り向いてはいけない。

 この人だかりで服を剥かれ、見せ物にされる。

 そんなの悪夢だ。魔女狩りだ。

  

 更に駆け足を速めた。もう、脇の下が汗でぐっしょりだ。

「待つんだ!」

 しつこい! 帰ってシャワーあびたーい。


 思わず振り向くと、後ろから追いかけきたのは、じゅんなファンとはちょっと肌合いの違うダークスーツの男だった。


 

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