5.5・破られた禁忌

 発端となった性暴力事件は、なんと魔女集会の分裂を狙ったある一人の魔女が男性らを洗脳して引き起こしたものでした。


 しかし疑問が残ります。


 というのも魔女たちの使う魔法では、他人の意識を操作する魔法は禁忌とされているからです。


 例えば頭の良し悪しによって妹たちはよく悩みますが、これを魔法でなんとかするのは禁忌になります。

 意識や思考や知識、そういった心の働きに作用する魔法は禁止されているのです。

 非効率に感じるかもしれませんが、魔女の心は形而上領域で互いに融け合って繋がっているので、だからこそ厳密過ぎるくらいに個々の区別をはっきりさせる必要がありました。


 これはどうしようもない悪人を改心させるためであっても同じです。

 魔法はなんでもできます。

 なんでもできるからこそ、規制もされているというわけです。


 どんな理由があろうと何人も誰の魂の形を変えてはなりません。もし互いに分かり合えない、どうしようもなく感性の隔たった相手とは、物理的に距離を取るしかありません。


 それが魔女の掟でした。


 しかし、一人の魔女がその掟を破ったのです。

 サラミ理論やエスカレーションの亜種とでも言えばいいのでしょうか。最初は凶悪で粗暴な人間を改心させるという、ほとんどの人──現に今これを読んでいるあなたみたいな──が「必要だから仕方ない」という理由で納得できるようなラインを、その魔女は突いてきたのです。そうして少しずつ人の心をいじるハードルを下げていったのでした。


 その魔女は地球上の命全てを飲み込むことで、MRCP場における特異点となり、全ての道徳的責任を背負い、よりよきものになろうとしたのです。

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