1・ 魔女に下す鉄鎚  Malleus Maleficarum

 人物

 ・ケン:魔女に娘をさらわれた復讐に燃える三十七歳の男。

 ・ハル:新人の戦車運転手。最年少の十六歳の少年。以前はトラック運転手だった。




 とても残念なことに、この二十一世紀中葉の世界には【魔法】があります。

 というのも、魔法はおとぎ話のようなほほえましいものではなく、軍事的な手段だからです。

 そしてもちろん、魔法があればそれを使う【魔女】もいます。

 「魔女集会(ウィッチパーティー)」という組織は国際テロ組織に指定され、組織に属する魔女は現在、その全員が国際テロリストとして指名手配されており、日夜、人間の軍隊と熾烈な死闘を繰り広げています。


 【魔法戦】は従来の電子戦や情報戦、陸海空を含む全ての戦闘段階に先んじて展開され、魔法戦の結果だけで他のあらゆる戦闘領域の趨勢が決まってしまうことから、「第零戦闘領域」とも呼ばれています。


 こんな世情の中で、私たち人類はどうなっているかというと、これまでに魔女によって二十九億二千八百万人もの男性が陵辱、殺害され、四十二億七千万人もの女性が死亡ないし拉致されました。


 【大断罪】と呼ばれるこの大規模な、魔女による攻撃と災禍は、無数の言葉をどれほど懸命に重ねても足りないほどに甚大な惨劇をもたらしました。


 天候の神々と大地の神々、そして海の神々の怒りによって大規模な気象災害が乱発し農耕牧畜は破壊的被害を受け、自己複製する“本物”の「見たら死ぬ画像」が通信システムに侵入し出回ったことでインターネットは物理的に寸断せざるを得ず、それに伴い物流管理システムも破壊されたことで輸出入は停滞、被害の大規模さと将来の不透明さから金融は大恐慌に陥り、都市を支える生活インフラはことごとく破壊されたことで都市生活者は食糧はもちろん飲み水すら確保が困難となり衛生状態が急速に悪化、子供や老人、傷病者といった弱者が次々と亡くなりました。


 世界中の国々は魔女の侵略によって想像を絶する程の大打撃を受けており、わずかに残った生存者たち──例えば山奥で自給自足の生活をしているような人々──だけではもはやなす術などなく、殆どの国家は崩壊状態に陥っていました。

 

 しかしながら、ここで魔女の侵略に狂いが生じます。

 なんと、ある一人の魔女──それも、幹部クラスの実力を持った──が離反し、人類のために立ち上がったのです。


 裏切りの魔女の名は【ニュクストル(Nuqztru)】。

 直径千五百キロメートルにわたって魔女の侵略を拒む超巨大な魔法の砦「結界」を造り、そこへわずかに生き残った人々を受け入れ、反撃の狼煙を上げたのでした。


 それから一年が経ったある日のこと……。


   *


 今にも落ちてきそうなくらいぶ厚く重い曇り空が天を覆っています。いつ雨が降ってもおかしくない、そんな空模様です。


 結界内の中枢にある広大な戦車格納庫へと続く、青白い電灯が並ぶ無機質な廊下を一人の少年が歩いていました。

 少年の名は「ハル」。彼もまた、魔女の災禍を生き残ったサバイバーでした。


 まるで女の子のように幼く端正な顔立ち、まつ毛の長い目はぱっちりとしていて、耳には幾つかのピアス、モデルのような小顔に細長い手脚と綺麗な指、可愛らしいショートヘアに特徴的な八端十字架のヘアピンをつけたハルは、まだ十六歳の少年でした。訓練期を終えた正規の戦車兵の中では最年少です。


 三ヶ月の訓練期間を昨日になって終えたばかりですが、深刻な兵員不足の毎日、今日がハルの初陣となります。壮行会のようなものなどありません。全てが淡々と進められていました。


 戦車兵試験を満点で合格し、手の毛細血管の形を利用した生体認証式の軍隊手帳を渡された時ですら、これは戦争なのか?とハルはなんだか雲でも掴む気分でした。


 新人のハルが乗る予定の戦車の車長は、これまで多くの魔女に打ち勝ってきた猛者中の猛者と噂です。否が応でもハルの期待は膨らみます。

 無骨なヘルメットを被り、日焼けした肌と太眉に大きな口、男爵のようなヒゲをたくわえ、泥まみれの軍靴を履き、戦車兵のトレードマークでもある耐火服には土を払った跡が無数にある渋いおじさん──それがハルの勝手にイメージした戦車長のビジュアルでした。


(今日からお世話になる車長さん、厳しい人だったらやだなぁ……でも噂ではいい人らしいし、ここはとにかく気負わずいつも通りで行こう!)

 そんなことを考えながら廊下の先のドアを開けると、その光景にハルは思わず声を出して驚いてしまいました。


「わあ………やっぱりいつ見てもすごい……」

 車両用シャッターが開かれた数百メートルにも及ぶ広大な格納庫に、何十両という数で暗灰緑色に塗られたいかつい戦車が並んでいました。

 戦車の名は『対魔女駆逐戦車VM54「ビヒモス」』。全長は二十五メートル、幅は八・五メートル、高さは四メートル弱という、通常の戦車の三倍近い巨体です。

 四脚獣の頭を外し、大砲を載せて、四肢の先端を履帯に取り替えたような見た目のこの戦車の最高時速は三百キロにも達し、更に毎秒二発のレートで撃てる直径百九十ミリの強力な主砲を備えた、巨大な鋼鉄の獣です。


 魔女との戦闘は「人間を対象にした従来の兵器」が全くついていけないほどに厳しい激戦です。まさにガラパゴス化したこの怪物(ビヒモス)は、魔女を殺すための過剰適応の産物と言えました。


 ハルは自分が乗る予定の戦車──所属識別符号29A-1と書かれた──を見つけ、高さ二メートルの車体に付けられたはしごを使ってよじのぼり、運転手席のハッチを開いて内部の座席に乗り込もうとしました。

 その時です。

 ハルが立つ場所の更に二メートル上にある戦車の砲塔の中から、何かボソボソと人の声、それに高めのブザー音が聞こえました。

「え、なに……?」

 あまりにも不審で不気味な事態に、ハルは恐る恐る砲塔部に登り、息を呑んで乗員ハッチの中を覗き込みました。


 そこでは一人の男が目隠しをしながら右手にジョイスティックを握り、無数の機材に左手を這わせて独り言を延々と呟いていたのです。男が両手で無数のスイッチをいじる度に、機械的なブザー音が鳴っては止みます。


「対魔導防御装置異常なし、NBC防護装置異常なし、座席懸架状態正常、シートベルト八点全て確認、ヘルメット装着よし、脳神経端子ケーブル異常なし、主電源起動よし、乗員照合異常なし、兵装安全装置よし、予備電源、緊急用発電装置、緊急時システム再起動ボタン確認、主排熱回路異常なし、魔導粒子検出装置正常、全配線系統全て異常なし、燃料状態異常なし、車体操縦システム立ち上げよし、乗車スペース防護殻与圧正常、油圧回路パラメータ全て異常なし」


 ハルは途中で気付きました。スイッチを押す順番が教本通りであることに。


 この目隠しをした男は、戦闘中に目がやられた場合や灯火管制下の夜間戦闘を想定し、非常時の機材のブラインドタッチを自主的に練習していたのです。


 特にVM54戦車は、操縦者が失明しても感覚的に車外の情景を把握できる拡張知覚デバイスが備わっているため、継戦能力を高めるこの訓練は非常に有効だと気付きました。


「全スイングアーム動作正常、全スイングアーム支持脚部動作正常、履帯張力全て安定、装甲状態検知器全て正常、思考加速装置接続反応良好、各種センサー全て異常なし、拡張知覚デバイス、セットアップ完了、戦術支援コンピュータ、自己診断完了異常なし、戦術統合ネットワーク通信状態良好、デジタル戦況マップ全て異常なし、ヘルメットディスプレイ、全方向外部風景AR、表示全方向正常、全計器表示異常なし、視線トラッキング、ユーザー視線リクエスト正常に作動。全僚車間ネットワーク接続完了、射撃統制装置及び安全装置正常、出撃準備完了」


 ハルの気配に気付いたのか、男は手を止め目隠しを外しながら上を見上げました。

「お、あぁ……君がハル?」

「あ、はい! よろしくお願いします!」


 車長の男──名はケンと言います──の姿はハルの想像と大きく違いました。

 普通そうな、むしろカッコいいおじさんです。身長は百九十ほど、白髪混じりの赤茶色の髪を深く刈り込んだツーブロックの頭に、長い前髪を右側だけに被せたクールなヘアスタイルが特徴的でした。

 話は聞いてる。よろしく頼むな、と言い二人は握手をかわしました。


「いきなりで悪いがハッチ確認のシークエンスをとばして、運転手席で出撃前のチェックをやってみてくれ」

「わ、わかりました」

 そう言うとハルは運転手席のハッチをあけて、中に乗り込みました。

 薄暗い戦車内、無線機や空調、操縦装置、コンピューター、ディスプレイといった無数の機械に囲まれた座席に八本のシートベルトで身体を固定されたハルは、訓練の時と同じように機材チェックを始めました。


 操作のかたわら、ハルが聞きました。

「ケンさんは何年前から戦車に?」

「最初に乗ったのが二十四の時だったから…かれこれ十三年目かなあ。多分結界内で一番長く戦車に乗ってると思う」

「そんなに……! すごいですね」

「といってもまあビヒモスは戦車というよりはロボットに乗ってる感じだから経歴とかはあんまり関係ない気もするけどなあ。実際、ハルは戦車なんか乗ったことすらないのに選ばれただろ?」


 ハルが返事をしようとしたまさにそのとき、警報がなりました。魔女の発見と出撃の合図です。

 そこに背の低い樽腹に無精髭を生やした男が駆けてきました。

 彼の名はジン。ケンと同じく戦車兵です。

 ケンとジンはそれぞれアルファ小隊とベータ小隊の隊長でした。

「ようケン、今日も一番乗りだな」

「お前こそ、来るのが随分はやいじゃないか」

「たまたま近くにいただけさ。それでなんだ、その子が新しい運転手か?」

「ああ」

「グヘヘ、いいじゃねえか。なかなか上等な運転手を見つけてきたもんだな」

 ハルの全身を舐め回すように見ながら言うと、再びジンは自分が乗る戦車に向けて走っていきました。

 変な人だなぁ……と思いながらもハルはすぐにチェックを終えるや、戦車を輸送機の待機場に向けて走らせました。


 出撃する輸送機全てに戦車が積まれ、積荷の点検が終わり、十八機の輸送機は滑走路へ移動を始めました。


   *


 二十分前のことです。

 結界の周囲数百キロ圏内を四千五百機もの無人偵察機──九メートルもある大きな紙飛行機に馬の頭が生えたような見た目でした──が、くまなく囲うように、数によるローラー作戦で絶えず監視している中、魔女三人が飛行魔法で移動しているのを同機が発見しました。

 すぐさまその様子を遠く離れた水平線の向こう、四百キロ先の上空一万メートルの高さを飛んでいる『VG-1対魔女警戒航空機』に連絡しました。

 全長六十メートルにも達する対魔女警戒航空機は、一見すると細長くしたトビウオを無理やり串刺しにしたようなグロテスクな形状の飛行機ですが、それは超大型高精度の多機能センサーが幾つも伸びているからです。


 魔女が魔法を使うと、【開通現象(フレドーヴァ)】や【前駆放出(ジェナシェルク)】といった現象が起こり、最後に【魔導粒子(マギオン)】という目に見えない痕跡物質が残ります。銃で言うところの硝煙反応のようなものです。

 その物質が放出する微弱な魔力を超大型のセンサーでキャッチしているのです。


 対魔女警戒航空機からの連絡を受け、人間側は大急ぎで『PVF-76魔法戦支援戦闘機』八機と『VBS-36無人戦闘爆撃機』六百機からなる戦闘爆撃機部隊、それにVM-54ビヒモス十八両の戦車部隊、そして追加の『VRA-10高性能偵察機』二機を現地に派遣しました。

 このまま魔女の移動を放置すると、ルート上、生存者たちが避難している「結界」に魔女が侵入したり、攻撃される可能性があるからです。

 もしも結界への侵入を許せば、再びあの凄惨な虐殺が起きるのは火を見るより明らかでした。

 戦闘爆撃機部隊は既に結界内の滑走路から離陸し始め、それに続く形で戦車を搭載した超大型輸送機も発進していきました。


   *


 青白く光るディスプレイが並ぶ薄暗い戦車内、輸送機のエンジンからくる轟音の中でケンが車内電話でハルにききました。

「なんで戦車兵に?」

「五つ下の弟に勉強をさせたいんです。僕、前はトラックの運転手だったんですが、両親と工場が魔女のせいで……それで生計を立てるために別の倉庫作業で働いてたんですが、運転手の募集を見かけて給与が良かったので応募してみたら……」

「まさかの戦車だった……と」

「そんな感じです」

 ケンは少し笑ってしまいました。

「ケンさんはどういういきさつで?」

 何気なくハルが聞くと、ケンは少しの間黙り、震えるような低いトーンで言いました。

「拉致された娘を助け出すためだ」

 ハルは緊張で全身から汗がふきだすのをはっきりと感じました。

「「魔女を一人残らず殺す」これが俺の戦車に乗る理由だ」

 その声色にハルは少し怖じ気づき、思わぬ地雷を踏んだな、と後悔しました。


 そこを隊長機無線でジンが話しかけました。

「二人とも真面目だなあ。俺もそういう理由で戦ってみたいぜ」

「そういやジンはなんで戦車兵に?」

「そりゃもちろん、ニュクストル様に救われたからこの身を捧げようと思っただけだよ!」


   *


 到着するまでの間も引き続き見失った魔女の捜索が上空から続けられます。


 というのも本来、魔女の透明化の魔法による擬態能力は完璧であり、数時間かけても見つからないことはざらでした。

 魔導粒子の痕跡も、航空機から分かるのはあくまで「そこで使用した」という瞬間的な位置情報のみであり、その後どこへいったか、どれくらいの速度だったかまではわかりません。つまり、魔女は行軍をやめて引き返した可能性すらあったのです。


 しばらくして、現場付近に到着した高速偵察機が再び魔女の位置を特定しました。

 通常ではあり得ないような幸運です。


 VRA-10高速偵察機が合成開口赤外線深度撮影を行なった結果、足跡と思しき砂礫のへこみとその周囲にできた数ミリにも満たないわずかな段差を上空から検出しました。

 魔女は先ほどの位置からわずか一キロにある渓谷に移動していました。その代わりあまり進んではいません。どうやら魔女は極力魔法を使わず、徒歩だけで結界を目指しているようです。


 四分後、戦車を乗せた輸送機に先んじて、戦闘爆撃機が現場に到着するや、三十発の焼夷ロケットが魔女めがけて発射され見事に命中しました。 

 大爆発と炎上による巨大な火柱が、峡谷から噴き出し、魔女がいると思しき一帯を一瞬で火の海に変えます。

 これを受けたのが人間であれば、もはや助かりようがありません。


 ただ、魔女を除けば。


 三千度にも達する豪炎の中から魔女は次々と姿を現し、三人の魔女は何事もなかったように歩みを続けていました。

 よく見ると焼夷弾の粘着油脂が魔女の上で大きく球形状に広がり、滴りを形成しています。球の上からこぼれた油脂はそのまま地面に落ちると凄まじく燃え出し、土をひび割れさせ雑草を一瞬で灰に変えてしまいました。

 これこそが魔女の代表的な魔法の一つ【魔導障壁(シールド)】です。

 シャボン玉のように透明で球形なこの盾は、爆弾の直撃はもちろん放射線からも魔女を守る強力でありながら低コストという傑作魔法でした。

 しかしそんなことは人類も折り込み済みです。

 戦闘爆撃機は次に化学兵器であるガス弾を発射、再度命中させました。


 これは魔女と戦う時のセオリーでした。というのも魔女は、無敵を誇るシールドを持ってはいるものの、それは同時に呼吸に必要な大気をもシャットアウトするものなのです。

 そこで人間側は、焼夷弾によって周囲の空気を奪い、更に毒ガスによって「息継ぎ」をできなくさせたのでした。


 酸素が尽きはじめたのか、魔女は飛行魔法でとうとう渓谷から抜け出し、そのまま山岳地帯を高速で低空飛行しました。


 魔女の魔法の使用は、全て対魔女警戒航空機のセンサーが捉えています。魔女の位置情報が更新され、ディスプレイの地図上に表示された魔女を示すマークが移動します。

 山々を滑るように飛んでいく魔女を、戦闘爆撃機が追い、ミサイルで攻撃を続けます。魔女は山脈の頂上を越え、その先に広がる荒野──その先には結界があります──へと移動しました。


   *


 無数のボタンが並ぶ、輸送機の操縦席に座るパイロットが無線で降着地帯への接近を戦車兵へ伝えます。

 するとハルは緊張した声でうめきました。

「ぅわあぁ……」

「どうした?」

「高いところ苦手なんです!」

「大丈夫大丈夫、ちゃんと成功するから!」

 初めての降下でおののくハルをケンがなだめます。

 落下傘が正常に開きますようにとひたすら祈り続けるハルに対し、ケンは淡々とシステムチェックを進めています。


 そしていよいよ輸送機が魔女から百キロ離れた降着地帯に到着、減速しはじめました。

 十八機の輸送機の減速と共に重厚なカーゴが油圧装置によって開き、戦車を載せた鋼鉄製のパレットが輸送機の貨物室から滑り落ちるや、次々と戦車が投下されていきました。


 灰色の落下傘が開き、パレットの四隅に下向きに設けられた減速用ロケットが噴き出したところで、轟音と共に鋼鉄の獣は地面に降り立ちました。


   *


 場所は濃い曇り空も相まって、すっかり色彩を失った灰色の荒野です。大小様々な岩石が目立ち、岩の隙間からのびる小さな雑草の他には細い低木がまばらに生え、時折雲の隙間から小さな太陽光線が大地を照らしていました。


 人家はなく、周囲は完全な無人地帯です。

 その荒野はかつて百万近い人々が生活を営む街でした。地図上ではここは旧市街の商店連なる大通りです。

 落ちている石や岩もよく見れば砂礫や岩石ではなく全てコンクリートやタイルといった建材の破片などの人工物でした。原型も何も残らぬ無数の瓦礫が山積みとなり、もはや道路と建物の境界など区別し得ません。


 ついに魔女と戦車の壮絶な殺し合いが始まります。輸送機はまるで戦車と魔女の殺意に気圧されたように、鋭い急速旋回を描きながら退避していきました。


 投下パレットと戦車を繋ぐ金具が、内蔵された火薬の爆発で外れるや、輸送機を見送るそぶりも見せないで戦車は一斉に走り出します。

 車体を支える四本の履帯は滑らかに地形に噛み合い、その動きはまるで水が地面を流れていくかのようです。踏まれた石がパキパキと砕ける音がする以外には戦車の動きは静かで素早いものでした。


 ここまでの戦闘情報は戦況統合ネットワークから受け取っているので、戦車部隊は既に魔女の位置を正確に把握していました。

 戦車部隊が展開した土地から六十キロ離れた先に三人の魔女がおり、魔導戦闘艦(マジックバトルシップ)の艦砲射撃が行なわれていると戦況マップには表示されています。

 時速百四十キロで進む戦車部隊は九両ずつのアルファとベータの二部隊に分かれ、さらにその先で三両ずつの六部隊になり、魔女を包囲する作戦に出ました。


 突然、魔女の三人が時速四百キロメートルまで瞬時に加速し空を翔けました。艦砲射撃から逃れるため、そして何より荒野を早く抜けて森に逃げたかったためだと人類側は推測しました。


 魔女の動きを戦車のセンサーと戦車兵らは見逃しません。戦車兵同士が無線で話し合います。

 もっとも戦車兵は全員、戦況を脳に繋げられた拡張知覚デバイス──センサーやネットワークから得られた情報をコンピュータが神経信号に変換処理して脳へと伝達する方式のインターフェース──によって把握しているのであって、口から発せられる言葉は確認と整理の為に音読しているだけなのですが。


「マリアスワンより各位。魔力検知、座標を送る。リンク確認」

「マリアスツーより各位。魔女三、南東方向、距離五万八千、照合完了、それぞれK-1、52、89と特定、各位データを確認、背面からの伏兵に備えろ」

「マリアスワンより各位。周囲警戒、隊形維持」


 マリアスワンとはケンのことです。そしてツーは先ほど無線で話していた男、ジンでした。

 魔女の姿はまだ肉眼では到底見えません。

 ですが、丘陵の向こうで空中を高速で飛翔する魔女の位置を、戦車兵たちは拡張知覚デバイスと対魔女警戒航空機からの共有情報を表示する戦術統合ネットワークのおかげで、まるで自宅の間取りの様に具体的に把握していました。


 元々は地上の対空戦力が、飛行する敵機を捉えるために作られたこの拡張知覚デバイスは、兵士の三次元的な空間把握能力をリアルタイムで補助する点で、航空機だけでなく空飛ぶ魔女相手にも大いに活躍しているのです。


 兵士が被っているヘッドマウントディスプレイの映像には、戦車の周囲の風景以外に、拡張知覚デバイスと戦術支援コンピュータによる補助として、地平線の少し下あたりに魔女のいる位置が三つの四角い枠で強調して示されていました。

 魔女をトラッキングして少しずつ動く三つの四角い枠の上には「K-1」「K-52」「K-89」とそれぞれ記され、枠の下におおまかな距離がメートルで表示されています。

 もっとも、仮に魔女が地平線の向こうから姿を見せたとしても、魔女の姿は光学的に偽装されている為に正体は見えはしません。


 ケンが無線で仲間に話しかけます。

「こちらマリアスワン、位置の割れてる魔女の数は三体だが、センサー感度以下に魔力放出を抑えて隠れてる奴が既にどこかにいる筈だ。今見えてる奴ももうすぐ分身や光学偽装をすると考えられる。警戒しろ」


 魔女がいると思しき方に砲塔を向けている車両以外は、他の方向に砲塔を指向させて周辺監視にあたっています。よく見ると戦車の上面から突き出た車長用の高精細カメラが、まるでフクロウの首の様に小刻みに方向を変えていました。


   *


 魔女の側に新たな動きがあると観測装置が検知しました。射程圏は魔女の方が遥かに遠大です。

 それに呼応して、上空を飛ぶ有人機が一斉に引き返していきます。


 一人の魔女が呪文を唱えると、周囲の空気が震え、風景が歪みだしました。赤紫色と金色の光の筋が何本も広がると、宗教的なシンボルを思わせる様な幾何学模様を描き、拍動の様な明滅を見せて辺り一帯を包み込んだのです。

 数十キロメートルもの範囲で大空を覆うこの模様は魔女が戦う時に出す視覚的ドラッグの一種です。

 初めて魔女が民間人を狙った大規模テロ攻撃をした際にも、多くの人々がこの模様を直視した事で洗脳され、集団自殺という惨事に繋がったのです。

 戦車の映像処理コンピュータはこれを防ぐべくリアルタイムで映像処理を行ない、通常の曇り空を合成表示しました。

 しかし有人戦闘機ではコックピットから風景を直視できてしまうため、先程の段階で離脱しました。

 一方の無人戦闘爆撃機は、戦車と同様に操縦者の見る映像を無害化処理しているため、現場に残り続けることができました。

 魔女との距離は四十キロを切りました。


 新たな魔力の前駆放出を戦車が検知した瞬間です。

 魔女のうちの一人K-89が、質量五十トン、長さ九メートルの黒い槍を、音速の三十倍という想像を絶するスピードで戦車めがけて飛ばしてきたのです。そのスピードは音速の壁を越えるどころか、先端部の空気が過圧縮によってプラズマ化し、まるで槍が彗星のように輝きだすほどでした。

 直前で回避行動を戦車は取りましたが、槍は戦車の正面装甲に命中、なんとか弾いたものの、正面装甲の六割が失われ、衝撃で戦車が横滑りしました。


 この程度の被害で済んだのは、【真遷移的境界性多様結晶スチール装甲】と【特殊ナノクリスタル合金鋼装甲】、そして構造体を兼ねた正面特殊装甲の三枚を組み合わせた、奥行き三メートル半もある分厚い複層装甲のおかげです。


 魔女は飛行砲台でもある大きさ五十センチほどの【フレームドクリスタル】四基を自身の付近に出現させ戦車に向かって飛翔させました。

 その見た目は名前の通り、美しく筋彫りが施された黄金の枠の中に、緑色に輝く宝石がはめ込まれた形をしています。

 これを使う事で魔女は少人数でも多方向から相手に同時攻撃を行なう事が可能でした。

 戦車のセンサーはそれらの動きを全てつぶさに察知し、短槍とクリスタルが飛翔してくる方向と速度を一つ残らず戦車兵の脳に伝えました。


 クリスタルから二千四百クエタワットもの超高強高精度レーザーが照射されるや、警告を受けた戦車は即座に丘陵の段差に隠れようとしましたが間に合わず、カメラセンサーを焼き切られました。

 この異常なまでに強力なレーザーは戦車本体に照射し続けることで表面を電離崩壊させ放射線をも生じさせるほどに凶悪なものです。


 すかさず他のフレームドクリスタルが戦車の後ろに回り込んできましたが、戦車はまるで甲虫の羽のような側面パネルを開き、すんでのところで真っ白の煙幕を展張し退避に成功しました。

 幸運なことに、魔女はフレームドクリスタルの眼を可視光線にしか対応させてないようでした。もし透視能力があったり、赤外線や電波も視えていたならば、戦車の重要区画である排熱装置を狙って攻撃し短時間で熱容量過多によってエンジン故障に陥らせることもできたはずでした。


 なぜこうなったのでしょうか?

 実は魔女の魔力は有限なのです。悪魔が出る夜にしか、魔力を回復できません。

 つまり、人間側はこの日中に飽和攻撃を続けてシールドを叩き続けたり、回避のために飛翔魔法を使わせ続け、或いはアンチサーマルスモークによって透視や物質置換といった高コストの魔法を使わせれば、魔女はいずれ魔力切れに陥って死んでしまうのです。

 特に、魔女のシールドは空間効率に対して質量効率がかなり悪く、極めて重い金属でできている徹甲弾一発を防ぐのと同じ分の魔力があれば、飛行機から落とされる爆弾を七発も防げるほどです。


 人類側はそれを狙い、陸海空からひたすら猛攻を続けていたのでした。


 戦車の戦術支援コンピュータは常に魔女の飛翔経路を予測、未来軌道を映像に表示し、戦車同士でリアルタイムに情報を共有し合っています。

 魔女との距離が三十キロを切りました。再び戦車は前駆放出──魔法を使う際に、前もって放射される魔導粒子の微弱な魔力のこと──を検知、魔女が三人から九人に分身しました。

 また更に、巨大な黒い箱を上空に広げ、その中に本物の魔女と分身の魔女が何度も出入りを繰り返しています。

 これではどれが本物か分かりません。


 魔女は【アクティブ・オプティカル・ドラッグ】と呼ばれる直視すると脳機能に異常をきたし死に至らせる効果がある画像や映像──いわゆる本物の「見たら死ぬ絵」です──を空中や自分に投影することがあるため、戦車のコンピュータは風景映像の中で魔女の姿を黒い四角形で塗り潰して表示しています。


 これらの図像による攻撃魔法は非常に凶悪な魔法です。

 もし一度でも直視してしまうと、網膜から送られてくる視覚情報が有害信号に置き換えられ、網膜からの侵食を脳が食い止めるべく無意識の緊急措置として自らの目を反射的にえぐり出してしまうのです。

 その上、既に視神経から脳に侵入した有害な信号情報は視床下部の働きを阻害し、臓器不全と共に神経系と分泌系の働きを狂わせ破壊します。その結果、粘膜が剥がれ落ちることで血の泡が吐き出され死に至るのです。


「こ、この黒い四角形って、なんかのミスで外れちゃうとかないですよね?」

 震える声でハルが尋ねます。するとジンが隊長車間無線で言いました。

「心配そうだな! そんなお前にいい事を教えてやろう! 魔女の視覚ドラッグはその模様が複雑な程、無害化に要する時間が長くなる。魔女はその気になればコンピュータを処理落ちさせられるんだぜ!」

「⁉︎ それマジですか⁉︎」

「さあなあ〜♡」

 車内電話の音声でもハルの声が震えていることが分かりました。

「嘘でしょ……ちょっと待ってよ……」

「ジン! 俺の運転手に変な知恵入れるんじゃねえぞ!」


   *


 魔女との距離は十五キロにまで縮まりました。


 戦車兵が見ている正面上空の光景は、無害化された幾何学模様の背景の中央に浮かぶ、巨大な黒い箱の周囲を、黒い四角形と緑の宝石が複雑な軌道を描いて飛び回っているという、前衛的な抽象画のような奇妙な光景でした。


 これを受けて、戦車はどの車両がどの個体を攻撃するか、射線が無駄に被り合わないように戦術支援コンピュータと拡張知覚デバイスが瞬時に役割分けをします。


 そして遂に魔女を射程圏におさめた二部隊の戦車は魔女の予測飛翔経路目掛けて二方向から同時射撃を行ないました。

 地上のあらゆる兵器を一撃で粉砕する程の破壊力を持つ、直径百九十ミリの【電熱化学速射砲】が、砲弾の発射薬にプラズマ電流を流します。ダーツを大きくした様な形の徹甲弾が砲口から飛び出し、砲弾の尾端から緑色の光を放ちながらマッハ八の速さで魔女めがけて飛翔していきます。吹き出し流れ行く砲煙の少なさが、発射薬の燃焼が高温高効率であることを示していました。それほどの強力な主砲を、M54戦車は毎秒二発発射できるのです。


 魔女の回避機動によって二十二発は避けられましたが、残りの三十二発はシールドに命中しました。


 戦車兵らは【思考加速装置(ブレインオーバークロックデバイス)】のおかげで、無数の射線が交差する戦場で、乱れることなく複雑な戦術的思考を次々と迅速に処理できるのです。

 十八両の戦車が数キロの範囲にわたって縦横無尽に荒野を駆け回り、砲撃を続け、魔女とその分身は攻撃を受けるたびに空を飛びながら何度も黒い箱の中へと回り込んでは出てきました。

 攻撃はお互いにやみません。

 魔女は今度は追尾徹甲弾を無数に放ちました。

 徹甲弾は走る戦車を追いかけ、戦車が何度も煙幕弾を射出してジグザグ走行でかわしても、存速を落とすことなく軌道を自在に変えて追ってきます。

 ハルが喚きながら言います。

「後ろの砲弾、撒けません! このままじゃ刺さります!」

 しかしケンは冷静に機材に目を配りながら

「電源容量確認、ステータスランプ全てグリーン…対魔導防御装置起動‼︎」

 ケンは戦術機動では回避不能と判断するや、車長用ジョイスティックの上面に設けられた赤い大きなボタンを押下し、【対魔導防御装置】を起動しました。


 その瞬間、戦車を追いかける徹甲弾は魔法による追尾飛行が不可能となり、ただの棒に戻るや力無く丘の斜面に刺さりました。


 対魔導防御装置、これは半径二百メートル以内に限り、一切の魔法を無効化する、魔法戦において不可欠の装備です。


 この便利な魔導防御装置には弱点がありました。それは起動している間は魔法による攻撃を受けませんが、装置の連続稼働時間が二分半しかなく、それを超えると四分近くの冷却インターバルが生じてしまう点です。ケンは全ての徹甲弾が脱落離散したのを確認するや、ボタンから親指を離し、装置を止めました。


 しかし遂に隊内の一両で、魔導防御装置が停止し強制冷却がかかった戦車が出てしまいました。


 実は魔導防御装置の中身は捕縛した魔女から採った培養腫瘍肉片なのです。

 というのも魔女の魔法は仲間である他の魔女を誤って攻撃するのを防ぐため強制的に止まるようになっています。装置はその仕組みを利用して、腫瘍細胞に電気を流して活性化させることでそこに魔女がいるのかのように誤認させるのです。

 ですが、電気を流しすぎると細胞が焼死してしまいます。装置の稼働制限とインターバルは、この細胞死を防ぐための安全装置なのでした。


 隊員の一人が叫びます。

「クソが! 僚車の対魔導防御圏内までの最短経路を検索……あと零・八キロ! 全力で行くぞ‼︎」

 K-1はそれを見逃しません。

 固有魔法の金縛りで戦車乗員の動きを止めるや、刀に似た魔導具を戦車めがけて一閃。

「⁉︎ 身体が……動かねええ……まずいまずいまずい‼︎」

 K-1の魔導具が放つ「流星一文字」は必殺の一撃です。

「あ……」

 乗員の耐火服に血が滲みます。

 次の瞬間には戦車はなすすべもなく、装甲はもちろん乗員も、更にはその後ろの丘から遥か遠くの雲まで、空間そのものが横一文字に両断されてしまいました。


 ケンが全車両に無線で呼びかけます。

「隊列を乱すな! 常に僚車の魔導防御装置の圏内で行動! 装置は代わりばんこで順番に起動して防御の穴ができないようにしろ!」


 その時、目にまばゆいほどの青白い光が走るや、長さ三メートルの銀色の槍が二両の戦車の側面に命中、戦車の左側面から火花が散り、同時に反対の右側面から無数の部品や破片が熱せられたポップコーンの様に吹き出しました。


 被害を受けたのはケンのアルファチームではなくジンのベータチームでした。


 魔女のいる方向からの攻撃ではありません。どうやら魔女は槍を迂回させ、戦車の側面方向に到達した瞬間に一気に加速をかけたようです。


 戦車兵らは何が起きたか理解するまで平均で六秒の時間を要しました。思考加速装置があったにも関わらずここまで時間が掛かったのは、装置の役割はあくまで思考の加速であり、使用者が緊張したり集中が途切れ思考が停止すると同じ様に処理が止まるからでした。

 

 被弾した戦車の乗員が咳き込みながら上擦った声で被害状況を連絡しました。どうやら被弾した四人の内、三人は心停止しているようです。バイタルが切れています。


 完全に装甲を貫徹されて座席ごと破壊されていたり、衝撃で首の骨が折れたりしていたらもはや望みはありませんが、そうではなく、尚且つ戦車の自動蘇生・応急処置装置がまだ機能するなら一命は取り留められました。


 ただ、戦車の緩衝装置でも防ぎ切れない程のダメージを受けて諸々が無事だとは考え難いともいえました。とにかく救出は後回しです。今は目の前の魔女を排除することが最優先事項でした。


 飛翔した二本の槍は前駆放出から命中までの時間と距離から考えてマッハ八十、秒速にして二十七キロメートル以上は出ているようでした。

 被弾した戦車はどれも砲塔の左側面に五十センチ近い大穴が開き、穴の周囲は融けて泡立っていました。

 余りにも高い圧力が掛かると金属は液体のように振る舞う特性がある事をケンたちはよく知っていましたし、それを実際に何度か見た事もありますが、それでも装甲の表面がまるで煮込み過ぎたスープの様に泡立つ所など初めて見る光景でした。


 戦車表面の装甲カバーは全てひしゃげてめくれ上がり、中から剥き出しの装甲と構造材、そして装甲状態検知器の配線が伸びています。命中した槍の破壊力もさる事ながら、その直後に襲ったまさに爆発と形容すべき程の強烈な衝撃波を浴びた事で、被弾した車両は全てのセンサー類とカメラを破損していました。

 もはや戦闘の継続など不可能である事は一目瞭然でした。

 大破した戦車の乗員で生き残った者は、視察窓の物理防護シャッターが閉じている事を点検して車内でじっと再起動を試み続けるしかやる事はありませんでした。

 焦って外に出れば魔女が出した視覚ドラッグで脳を溶かされてしまいますし、生身で戦闘に巻き込まれればそれこそ肉片すら残らないからです。


 この戦車の砲弾は超高温のプラズマ点火以外では爆発しないものしか積んでいません。

 なので誘爆する可能性も極めて低く、仮に誘爆しても爆風を外に逃す様に設計されていました。大破こそしてはいますが、相対的に車内の方が遥かに安全である事を戦車兵たちは理解していました。


 ですが、そうは言っても結局彼らは人間で、どれだけ外が危険でもそれを承知で相棒の乗員を助けに行きました。

 もう手遅れかもしれない。自分まで死ぬかもしれない。それでも彼らは、苦楽を共にした相棒がまだ助かったかもしれないのにそれをみすみす死なせた、という後悔だけはしたくなかったのです。愚かかもしれません。その愚かさもまた人間らしさといえば人間らしさでした。


 ケンが乗る一両はそれに気づくや、周囲に白い煙幕を展張し、戦車兵が狙われないように庇ってやりました。


 この戦闘の最中、高速偵察機は魔女の魔法の射程外へと逃れつつ、魔女の挙動を中継し続けました。そこで偵察機はある事実に気づきます。


 なんと、魔女は三人のはずが、足跡は四人分あるのです。

 パイロットが魔女の足跡を執念深く捜索したことで発覚した事実でした。


 偵察機はこのことをすぐさま報告し、また各種波長域の他、ミリ波カメラでも撮影を試みましたが、いずれも足跡以外はうまくいきませんでした。

 これでは四人目の魔女がどのコードネームに当てはまるのかもわからないため、脅威度評価もできません。

 魔導粒子の痕跡も三人分しかないことから、偵察機のパイロットはとりあえずの可能性として、この四人目の魔女は極めて強力かつ高性能の各種粒子遮断性能を持つ【透明化マント】を被っている、とだけ結論づけました。


 透明化マントのような、常に魔法が発動している道具は、魔女が使う魔法と違い、開通現象に伴う前駆放出という魔導粒子の痕跡反応が起きません。

 逆にK-1が使う刀は、刀の中の魔力が流れて初めて空間切断の魔法が発動されるので、開通現象から一連の魔導粒子の飛散が観測されるのです。


 魔女はその実力に応じて、K(植物)、R(騎士)、Z(星)の三種類に分類され、さらにその上に「教祖」、その更に上に、魔力の源泉たる「悪魔」がいます。

 K級の魔女の平均魔力貯蔵量を基準にすると、R級の魔女はその七乗の魔力を有していると言われています。

 K級の魔女が使う魔法は先ほどの戦闘の通りですが、R級ともなると地形改造や物質置換、幻獣の大量召喚、更には瞬間移動といった大規模かつ複雑高等な魔法を連発してくるので、人間の造る兵器ではそもそも勝負にすらなれないか、勝っても何倍もの犠牲が出るのは必至と言えました。


 しかしケンは怖気付きません。


 戦闘機は武装を使い果たしたので再度基地に戻って行きました。戦闘艦も主砲の冷却を各部で始めています。


 人間たちの執拗な砲撃の終わりに間髪入れず、今度は魔女が反撃を始めました。

 

 戦車に搭載された魔導粒子検出器が、魔力の前駆放出である開通現象を捉え、K-52とその分身を示す四角形の上に前駆放出を意味する赤い感嘆符が映像上に出る前に、部隊長であるケンが「魔導防御装置起動! 全車散開!」と隊内無線で叫ぶや否や、戦車兵たちは魔導防御装置を起動し、一斉に各個ランダムな回避運動を最大速度で始めました。

 もちろんその回避運動は戦術支援コンピュータが各車で情報を共有し、進路が重ならないようになっています。


 K-52が使おうとした【空間圧縮魔法】は、隊列などの密集した目標には有効ですが、散開した相手にはコストパフォーマンスが著しく劣るため、無駄撃ちさせれば魔力を消耗させることができます。その上、戦車は魔導防御装置を起動しているため、魔法そのものが通用しません。

 K-52は一度詠唱した魔法をキャンセルせざるを得ませんでした。


 しかし攻撃は止まりません。今度はK-89の正面の空中に、インクを混ぜた水の様に透き通った黒い結晶が無数に湧き、それらが石英のクラスターの如く複雑に組み合わさり、そして魔法陣にも見える図形を形成しました。

 その結晶の図形を囲うように二十四本の漆黒の単槍が出現し、戦車隊めがけマッハ六の速度で飛翔させました。

 戦車兵たちは素早く手元の操縦装置を操作し、瞬時に動力リミッターを解除し限界まで戦車の速力を上げ更に回避運動を続け、K-89の集中力と魔力を切れさせるべく、何度も砲撃を続けました。

 その間の判断と動きは全て一秒にも満たずなされました。戦車兵の全員が脳に外科的な手術を受けており、脳が戦車の思考加速装置と電気的に接続されているからこそ出来る芸当です。


 戦車は時速三百キロメートルという高速鉄道なみの途轍もない速度で荒野を駆け抜けます。【立体織炭素繊維強化金属】でできた履帯が持つ、異常なまでの頑丈さのおかげです。次の瞬間、それまで戦車がいた場所を一本の短槍が猛スピードで通過しました。次いで短槍の出した爆発的なソニックブームが戦車を襲い、幾つもの小石が戦車の後部を叩きます。

 立ち上る砂煙を突き破り、戦車がジグザグに回避軌道をとりました。

 短槍もそれを逃さず、追尾してきます。

「ラチがあかねえ! ハル! 俺が合図したら左方向にドリフトしてくれ!」

「了解!」

 ケンが「今!」と叫んだ瞬間です。運転手のハルが戦車の後部履帯に急ブレーキを掛けながら左方向にハンドルをきるや、ケンも同様に砲塔を左へ旋回、戦車は大きくU字カーブを描きながらドリフト、追尾の反応が遅れた短槍が戦車の真横を通ったまさにその瞬間、ケンは主砲をぴったりと短槍に合わせ引き金を絞ったのです。

 砲弾は見事直撃し短槍が砕け散り、戦車は振り返ることもなく走り抜けました。

「うおおおおおお‼︎ すげええええ‼︎」

「いや、まだだ!」

 大興奮のハルに対し、ケンは冷静です。それもそのはずでした。なんと既に戦車三両が短槍によって大破させられていたのです。

「畜生……俺が手塩にかけて育てあげた仲間たちをよくも……絶対に許さねえ……!」

 いつになく真面目なトーンのケンに、ハルは少しびくついてしまいました。

 ジンが隊内無線で話しかけます。

「こちらマリアスワン、総員、槍をさばいたら速やかに魔導防御装置を切れ!」

 しかしながら、損失の出るペースは確かに良いものとは言い難いのも事実でした。生き残った他の戦車は煙幕や地形を駆使して、なんとか避けるのが精一杯という状態です。

 もちろん魔女は待ってはくれません。全車が魔導防御装置を切った瞬間です。

 K-1の刀が煌めき開通現象が起きる──よりも速くK-1を一両の戦車が砲撃、魔導障壁が自動展開し、K-1の動きが止まりました。

 砲撃の主はマリアスツー、ジンです。

 一体どうやって黒い四角形でしか表示されていない魔女、しかも分身が混ざっている中で、ジンは特定の目標を狙い撃てたのでしょうか?

「驚かせちゃった〜カナ?」

「……」

 ジンからの個人無線に、ハルは一瞬引いてしまいました。

 ジンが再び砲撃を浴びせると、黒い四角形はそのまま上へと飛び、巨大な黒い箱の中へと逃げ込みました。

 実は殆どの攻撃魔法は魔導障壁を解除した状態でないと扱えないのです。

「なんでアレが分身じゃないって分かったんです?」

 手品でも見たような声でハルが聞きました。するとジンはこう言います。

「四角形の中で一つだけ、必ず地面に降り立ってはじっとしてる奴がいたんだ。それで俺は分かっちまったのさ。アレはK-1、フリザンテマちゃんに違いないって」

「……?」

「恐らくだが、必殺の流星一文字を放つには居合いスタイル、要するに刀での早撃ちポーズをしなきゃいけないんだろうな。それで一体だけ、地面に降り立ってウロウロしてるやつがいたんだよ。そこで思ったわけさ。ああ、コイツもしかして発動条件が揃うの待ってるフリザンテマちゃんじゃね?ってな」

「戦闘中なのに地味にすごい観察眼ですね……」

「いんやあ、若い女の仕草を常に見てる癖が出ただけさ」

 ハルはまたしても引いてしまいました。


 戦車隊はK-52の圧縮魔法を警戒するために解いていた隊列を再度組み直し、攻撃を再開しました。魔女はいよいよ魔力が尽き始めたのか、反撃の規模も回数も、最初よりかなり落ち込んでいます。

 このまま押し切れば人類側の勝利でした。


 そうと思いきやなんと、急に雲が明けて太陽からの光線が強烈に大地に降り注ぎ始めました。上空に突然大きな強い風が吹いたことで雲が移動しはじめたのです。


 これに対して真っ先に強烈な危機感を覚えたのはケンでした。

「まずい、まずいぞこれは、流石にまずすぎる! 予報外してんじゃねえか!」

 ケンはすぐさま戦術統合ネットワークを介して部隊に下命しました。

「こちらアルファワン、アルファチームは魔導防御装置を起動、ベータチームは魔女を攻撃しながら後ろの丘まで最大速度で退──!」

 ケンが喋り切る前に、事態は急変していました。

 目の前でアルファチームの戦車一両が大破炎上したのです。

 攻撃の主は魔女ではなく、K-89の紅い【人型幻獣】でした。

 幻獣とは魔女に使役される怪物のことです。個体ごとに様々な能力を備えており、魔法戦において大いに魔女を支援します。


 アルファチーム各車の魔導防御装置が起動するや、幻獣は霞のように消え去りましたが、装置によって実体化が解かれただけであり、倒したわけではありません。

 思考加速装置の周波数を上げて、ケンは隊に命じました。

「アルファチームは無制限戦闘で幻獣を牽制! ベータチームは一時後退しながら魔女を攻撃する! 五時方向六百メートル台地だ! スモーク散布、出発しろ!」

「アルファチームはとにかく走り回れ! そして魔女が地面に立ちそうになったらデコイでもいいから一斉砲撃を当てろ!」

 思考加速されたケンの指示する声には、鬼気迫るものがありました。

 ケンの指示に従い、隊列は二手に分かれるや、魔女に向けて更に激烈な砲撃を続けました。

 ケンの計算上、魔女全員の魔導障壁が壊れるまで概算であと百五十発といったところでした。

 しかしその計算が狂ったのは、まさかの晴れ間の出現です。

 というのも魔女が幻獣をフルパワーで使役できるのは、太陽がある日か夜の限られた日だけだからです。

 逆に言えば幻獣が凶悪化する晴天はまさに戦車にとっての厄日と言えました。

 ジンの危機感は現実となりました。


 それでもアルファチームは砲撃を繰り返し、見事にデコイを避けて本物のK-1に命中打を加えますが、その全てが幻獣である【盾鬼】に塞がれてしまいました。


 盾鬼の盾は吸収と反射の二種類のモードがあり、反射は命中した戦車の砲弾をものの見事に戦車方向へと弾き返し、吸収はその名前の通り命中弾を別空間へと送り込んで消してしまうというものです。特に吸収は接触物体を微細に情報化して別空間へと送るため、積極的に用いれば、まるでプリンでもえぐるように、触れるだけで相手を“削り取る”武器として扱えます。


 更に紅い幻獣の方はK-89に強化魔法をかけられたのか、見るもおぞましい非人型の姿へと変貌していました。四肢は地を這い、目玉は十個以上並び、口からは無数の触手が伸びています。過去のデータを参照するに、あの状態の幻獣はこれまで度々戦闘に参加しており、累計で七十両以上の戦車を大破させてきたようです。


 状況はまさに絶望的と言えました。

「む、無理だ……もう勝てない」

 怖気付くハルにケンが言いました。

「慌てるな! まだ手立てはある!」

「ど、どうやって?」

「指示通りに動いてくれれば良い!」

「え……」

「あと十五分で決着がつくぞッ!」


 ケンの声色に、恐れは全く感じられませんでした。

 ケンは脳内イメージを戦術統合ネットワークで全員に共有し、隊内無線で呼びかけました。

「こちらマリアスワン、マリアスツーは魔導戦闘艦に支援砲撃を要請、弾種魔法誘導徹甲榴弾! 魔女の座標を船に送れ!」

「こちらマリアスツー、了解!」

 レーザー誘導だと魔法による光学欺瞞で着弾点をズラされるので、ジンは敢えて古風な座標砲撃を指示しました。

「アルファチームは回避運動と同時に距離二千を維持して魔女を砲撃! 釘付けにして逃がさないようにしろ!」

「ベータチームは三両一組になって百メートル間隔に散開! 台地を盾に幻獣と盾鬼の前進を阻止! 盾鬼は弱点の脚と頭を同時に狙え! 一組につき一両ずつ魔導防御装置を起動し、随時交代を繰り返して冷却時間を稼げ! これなら七分半は稼げるはずだ!」


 ケンの指示に従い、戦車隊は再び一斉に動き始めました。

 猛烈な砲撃を受け、魔女は怯んでいますが、やられっぱなしにはなりません。

 K-52は戦車を集団ごと破壊することを諦め、各個体を狙って圧縮魔法を使い始めました。

 アルファチームの一両が金属を引っ掻いたような不快な高音や金属が裂ける時の破裂音を出しながらぐちゃぐちゃに潰されました。

 K-89は再び二本の黒い槍と五本の短槍を造り出し、戦車めがけてマッハ六で飛ばしました。こうした物体の運動エネルギーを用いた魔法は、誘導や飛翔距離に難がありますが、魔導防御装置を無視してダメージを与えてくる点で非常に厄介なものと言えます。

 槍は二本が戦車に命中、しかし正面走行は貫徹されなかったため、乗員は無事でした。

 ですがそこから百メートル先の車両は、魔導防御装置がタイムアウトを起こしてしまい、冷却時間が来てしまいました。

 K-1の魔女の刀が煌めきます。

 戦車一両が二つに分かれ、大破しました。

 そこへ紅い幻獣が突入、冷却中の戦車を片っ端から踏みつけて捻り潰していきます。他の戦車が阻止するべく砲撃を行なうも、幻獣はジャンプし空中で身体をひねり、軽々と砲弾を避けました。

 その時、魔女がいる場所を中心に猛烈な砲撃が始まりました。艦砲射撃です。

 魔女との距離を二キロで維持しろというケンの命令は、この砲撃に巻き込まれないようにするためのものでした。


 四十数発の誘導砲弾が魔女に命中、戦車の攻撃も合わさったことで魔導障壁が過負荷状態に落ち入り、飛行魔法を維持できなくなった魔女は地面に降りざるを得なくなりました。

 K-89は幻獣で戦車を牽制しながら、砲撃を突破しようと試みるものの、戦車からの猛攻撃を受けてしまい進めません。K-1とK-52も同様です。


 現代の魔女へと下す鉄鎚は、鋼とタングステンで出来ていました。


 なんと更に、それまで出ていた太陽が再び雲の裏に。ケンは狂喜乱舞します。

「よっしゃきたああ‼︎ 曇った! 曇ったぞ、消えろ幻獣ども‼︎」


 魔女の最後の頼みであった幻獣たちは、光の粒子となって静かに消えていきました。


 気づけば、魔女は三人で一ヶ所に集まり魔力を共有しあうことでなんとか魔導障壁を維持する状態にまで陥っていました。

 そして、それまで魔女の姿を隠していた──というよりも、致死性映像から乗員を守るために重ねられていた──黒い四角形が消えました。


 そこにいたのは、三人の少女でした。K-52「ピオン」は怯えた目つきを、K-89「アカシア」は歯を食いしばり、K-1「フリザンテマ」は刀を握りしめてこちらを睨みつけています。


「かわいい〜〜〜!♡♡」

 ヘッドマウントディスプレイの8K超高画質映像を最拡大し舐めるように見ながら、ジンが歓声を上げて喜びました。

 ジンにとって、魔女の姿を生で拝むことは、文字通り大金をいくら積んでも叶わないほどに強烈な願望だったからです。

 外部の指向性スピーカーで、二人の小隊長は魔女への想いをぶつけます。

「ピオンちゃんの淡い水色のフリルパーカー、黒いリボンがアクセントでかわいいねぇ〜♡しかもインダスつけてるんだ♡」

「アカシアちゃんもカジュアルなのにスタイルのお陰で全体的にしまりがあって良いね〜〜♡♡」

「フリザンテマちゃんの民族衣装はもう最高! 完璧な着こなしで昔らしさを感じないのはすげえよ! マジでみんなかわいい〜〜〜♡♡♡」

「あァ〜〜〜‼︎ どの子も可愛すぎるしもっと他の衣装姿も見たい〜〜〜‼︎ このまま死なせるとか勿体なさすぎるだろ〜〜〜‼︎ でも殺さなきゃな〜〜♡♡‼︎」

 ご機嫌なのか葛藤なのか分からない話を一人で喋り続けるジンに対し、ケンは

「死ね! 死ね! 死ねえええええッ‼︎ このクソ虫共があああぁぁッ‼︎ ウチの娘を今すぐ返せええええッ‼︎ 早く早く早く‼︎」と絶叫しっぱなしです。


 ハルはずっと黙ったままです。ハルの手脚は、小刻みに震えていました。

 人類側の勝利はもはや目前でした。


 ジンがぼそぼそとつぶやきます。

「そもそも魔女どもが女だけの街を作るとかタワゴトを抜かさなきゃ、お前らは生きていられたんだ。サッサと俺の彼女にでもなっちまえばいいのにな。頭の悪い連中だぜ全く!」


 瞬間、ガラスの食器が割れた時のような音と共に、魔導障壁の一枚が砕けた、その時です。

 突然一人の魔女が低空を時速七百キロの猛スピードでランダムに回避軌道をとりつつ高速飛行し、戦車の包囲を突破したのです。


 飛び立った魔女はK-1、フリザンテマでした。すぐさま戦車は反応し、砲塔を回して近接信管つきの砲弾を撃ち込みましたが、シールドで防がれてしまいます。

 K-1は一キロメートルほど飛んだ所で何かを掴んでそのまま地平線の彼方へと消えました。


 残された二人の魔女は、両手を挙げてひざまずきました。抵抗の意志はもうないようです。


 こうして人類と魔女との一戦は、人間たちの勝利に終わりました、そう皆が確信した時です。

 ケンが「視線トラッキングを解除! 全員目を瞑ってそらせ‼︎」と言い切る前にひざまずいた魔女二人が突然、致死性画像を空中に表示したのです。

 それも戦車の映像処理コンピュータの処理が間に合わないように、とびきり複雑で高度なものを。

 ヘッドマウントディスプレイに一秒にも満たず表示されてしまったソレは、思考加速装置によって体感上五秒弱にまで引き伸ばされ、その結果九人が激しく痙攣するや、自分の顔とバイザーで覆われた両目を何度も何度も掻きむしりながら血の泡をふいて死にました。

 ケンとハルとジンの三人はあらかじめ視線を魔女から少しずらしており、瞬発的に目を閉じて更に視線方向を完全に横方向へずらしたおかげでことなきを得ました。

 ケンは即座にヘルメット象限同調砲塔のモードをオフに、手動操作へ切り替えるや「はよ死ねやこのボケがオラァッ‼︎」と叫びながら同軸三十ミリ機関砲の引き金を引きました。ジンと他数名の車長も同様です。

 魔女はしたり顔で大笑いしながら、砲弾の嵐を受け、全身は引き裂かれた肉片に変わり、そのかけらが無数の花びらとなって風と共に散っていきました。


 自分と同じくらいの女の子たちが目の前で容赦なく殺される瞬間を、ハルはその短い人生で初めて見ました。

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