表象の魔女

錬磨百戦

0.0・序詩  Introduction

 三年前。学校でのいじめ──そんな甘い言葉じゃ意味がない。あれは完全な犯罪行為だった──が原因で、娘のレナは学校をやめたいと言ってきかなかった。


 忘れもしない。四月十八日の暖かい日のことだった。天気がいいから一緒にドライブしないかと部屋を訪れノックしたんだ。

 少し待っても返事がない。

「開けてもいいかい?」と尋ねてみても返事がないから、私はドアを開けた。


 そこには居るはずの、娘の、レナの姿はどこにもなかった。いなかったんだ。

 

 いつもベッドの隅でずっと泣いていた、何もしてやれなかった私の娘が、部屋のどこにもいなくて、ただ窓だけが開かれていたんだ。

 カーテンが風になびいて、窓は開け放しのままだった。


 私は探し尽くした。警察にも相談したし、ポスターも自分の手で貼った。

 色々な人が助けてくれた。けれど、何日経っても手がかりは得られず、一ヶ月が過ぎ、三ヶ月が過ぎ、半年が経ち、そして一年経っても、娘は戻って来なかった。


 ある日私は娘のSNSアカウント──いなくなった日を境に更新が止まっている──を見つけた。そこには私に一度も話してくれなかった彼女の慟哭が三万件も投稿されていた。

 私はそこに書かれていた我が子の叫びを何度も何度も読み返した。娘の行き先に繋がる何かがないかと探って。

 読む度に、私はまるで我が子のお腹を切開して内臓を腑分けしているような気分になったが、私はそれを堪えてただひたすらこの広大なインターネット空間にわずかに残された娘の足跡を必死になって追った。


 そこに「園」のことが書いてあった。


 だが具体的な地名はなく、捜索は振り出しに戻った。しかし、園という何かが関わっているらしいこと、それだけはわかった。

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