第16話 後継
「ふーー」
楓がそう言いながら寝転がると周囲で見ていた人たちから拍手が上がる。
「楓ーー!!」
感傷に浸る間もなく夏希が飛びつく。
「あはは……心配かけてごめん。なんとか勝てたよ」
「ほんとだよ。でも……信じてたから……」
「そうか……ありがとう」
都合のいいやつだなーなんてことを思いながら葉月も楓に声をかける。
「おつかれ。案外苦戦したね」
「おつ。かなり強かったよ」
楓は二人とある程度言葉を交わすと一人遠くからその様子を見ていた人物に声をかける。
「ありがとうございました。明日野さん」
未来はにこやかに微笑み答える。
「いいや。仲間のためだ。当然さ」
楓は先の戦いで未来の能力を使った。
「ちょっと手伝ってくれる?」
楓は三人のところに行った時、三人に相談をしていた。
「みんなの力を借りたい。協力してくれ」
「もちろんいいけど……めずらしいね」
葉月は不思議がりながらも了承した。
「私にできることがあったら何でも言って!!」
「無論、私も手を貸すよ。なにをすればいい?」
夏希と未来も特に何も言わず了承した。
「とりあえずこの対人戦に他人がどこまで干渉していいのか確かめたい。誰の能力がいいかな……」
「それなら私の能力がいいだろう。実戦でも使いやすい」
未来が提案する。
「そーいや俺明日野さんの能力ちゃんと見たことないや……」
「見せてないからね^^今から試すついでに説明するさ」
そういうと腰につけていたペンを掴み――
「
そう呟く。
すると空間が割れ一瞬のうちにペンが刀に変化した。
「わあ……なにこれ」
「すごー」
夏希と葉月が驚いた声を漏らす。
「私の能力、
「幻覚?」
「ああ。それも視覚だけじゃない。
「鏡●水月みたいな感じか」
「そうだね。そんな感じだと思ってもらっていいよ」
未来は得意げに続ける。
「例えその辺の石ころだろうと私がそれをカレーに見せれば見た目も香りも味も食感も触覚もカレーになる。正確には相手がそう誤認する」
「……やばいな」
「というわけで今君に
「えっ嘘。いつの間に……」
楓は不思議そうに自身の体を見回す。
「……特になんの通知も無し。直接危害を加えたらさすがになにか起きそうだけどこのくらいなら問題ないみたいだね」
「そうですね……てか二人がドン引きした顔でこっち見てるんですが、俺今どんな風に見えてるの……?」
「ああ、君は今くいだおれ太郎になってるよ」
「なんで!?」
くいだおれ太郎とは大阪名物の、白に赤いボーダーの入った服を着て太鼓を叩いている誰もが一度は見たことがある”あれ”のことである。
「快気祝いさ。どうやら敵さんに感謝しなきゃいけないみたいだね」
「そうですね……なんで快気祝いでくいだおれ……?」
「なんとなく。輝いてそうだろう?」
「よくわかんないけど……ありがとうございます(?)」
「あのーお楽しみのとこ悪いんですけど戦闘中ってこと覚えてます?」
夏希が話を戻すため口を挟む。
「そうだった。じゃあ作戦を伝えます。明日野さんお願いできますか」
「もちろんだよ」
こうして作戦は実行された。
頭上に設置した剣の中に楓が潜み
「あそこまでうまくいくとはね」
「ですね。作戦って綺麗に決まると気持ちいもんですんね」
楓がすっきりしたような顔で頬を緩める。
「あと君さらっと私のこと呼び捨てにしてたよね^^」
「あーいや……すみません」
戦闘中のことを思い出す。――確かに緊急だったから。
「ふふ。別にいいさ。これからも未来と呼んでくれて構わないよ。明日野さんじゃ長いだろう。もちろん二人もいいよ」
「あ、まじすか。じゃあこれからは未来さんって呼ばせてもらいますね」
「じゃあ私も……」
「私もー」
二人も呼応するように繰り返す。
「ふむ。硬い子だ。大人びているのも考えものだね」
その後、楓は近づいてくる二人をなんとか振り切り一人になる。先ほど緑を吹っ飛ばした方に行ってみたが誰かが回収したようで、すでにその姿はなかった。
(お礼……言いたかったんだけどな)
そんなことを考えながら来た道を戻る。来た時より遅い足取りで。
楓の脇を風が通り抜ける。
人は探す。魂の在処を。
人は委ねる。心の在処を。
人は辿る。運命の在処を。
運命は如何に輝くか。
それはきっと――
(たぶん俺はお前の代わりには成れない。お前みたいに器用には立ち回れないしお前みたいに全員をまとめることなんてできない)
楓は空を仰ぐ。
(でも、でもね。俺にしかできないこともあるみたいなんだ。まだ夏希たちがいる。俺が守らないと)
空では地上で殺し合いが行われていることなど意に介さないようにあの日と同じ青空が広がっている。
(お前みたいにはなれない。それでも俺なりにやれることを頑張ってやっていこうと思うよ)
楓はそんな青空の下、仲間の元に帰る。心に一本の松明を灯して。
それは広い空から見たらなんてことない小さな一歩。
それでも楓にとっては一つ前に進む、未来への大きな一歩だった。
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