第7話 葉月
三人は案外早くに明と合流した。
「かえでー!と……おお!?両手に花じゃねーか!」
「うるせー。無事で良かったよコノヤロー」
楓は明が元気そうなのを見て内心ほっとしていたが、そんなことを言えるわけはなく、照れ隠しをした。
「おおう。ありがとよコノヤロー」
明も照れ隠しをした。
「それで……こっちのお二人は?」
明は葉月と未来を不思議そうな目で見つめた。
「ええっと……この二人は……」
言いかけたところで未来が口を開いた。
「私は明日野未来。こっちは横沢葉月。神咲くんとはこのゲームの中で出会ったんだ。よろしく」
明は一瞬あっけにとられたがすぐに未来のほうにむき直した。
「僕は王前明です。よろしくっす!楓とは同じ学校だったんすよー」
明も手慣れたように自己紹介をする。
ここで楓は自分が自己紹介をしていないことに気づく。
「てか俺明日野さんに自己紹介してないじゃん。俺は――」
未来が遮るように口を挟む。
「楓くんのことは葉月くんから聞いているよ。昔からの友達で今でも学校で仲良くしてるとか」
「なんだ。聞いてたんすね。なら良かった」
(そーいやさっき初めて会ったときも俺のこと知ってるような口ぶりだったな……)
明が大きな声で驚いたような声を上げる。
「てことは横沢さんと僕同じ学校!?まじかよ知らなかった!よろしく!」
明は握手を求め手を差し出す。
葉月はおびえながらも手を差し出した。明と会ってからずっと閉じてた口をやっと開く。
「えと……横沢……葉月です……王前くんのことは……えと……神咲からちょっと聞いたり……してたり……しました……」
どもりながらもなんとか答える。葉月は男、特に自分より大きい男の人が苦手だった。といっても葉月の身長は平均より小さい140センチほどしかなかったため、基本みんな葉月より大きかった。
ちなみに葉月はさっき明のことを知ったため、神咲からちょっと聞いたりしてたりしていない。
「うん!よろしく!」
明が満面の笑みを向けると葉月の顔も緊張の糸が解けたかのように緩んでいった。
四人が揃ったことによってとりあえずすることがなくなったため一息つくことにした。
「なんかカフェとかあるけどまず金がないんだが……ただでいけんのか?」
「いやあ……さすがに……」
どこで休憩しようかと四人で相談しているとまたアナウンスがなった。
〈一通り第一ミッションが終了したようなので、第二ミッションを開始します〉
「来たか……思ったより早かったな」
〈第二ミッションはポイントの獲得です〉
「ポイント……?」
四人が疑問に思っていると続けて無機質な声が響いた。
〈ポイントはこのゲーム内における通貨です。プレイヤーの皆さんは①ダンジョンにある素材の売却、②ダンジョンにいるモンスターの討伐、③他プレイヤーとの対人戦によって手に入ります。このどれかを達成しポイントを獲得してください〉
アナウンスが終わり周りの人たちがざわつきだす。それは楓たちも例外ではなかった。
「いきなりいろんな新情報出てきたな……」
「ダンジョンとかあるんだーこわー」
「対人戦のが怖くね?」
「まあとりあえずゆっくり話し合おうか」
「「「さんせーい」」」
それぞれ話していたが明の提案で一端、近くにあった公園でゆっくり話し合うことになった。
木に囲まれている真ん中に遊具がおいてある静かな公園だった。木々の隙間から木漏れ日が溢れ出し、時折吹く風は心地よい葉擦れの音を奏でている。遊具の端にベンチがあったためそこに葉月と未来を座らせ話し合いを始めた。
まず明が口を開く。
「まずはさっきの第二ミッションの話をしたいんだけど、第二ミッションはポイントを獲得しなきゃってことで良いんだよね?」
「そーだな。実際ミッションを達成しないとどうなるかはわからんけど、わからないからこそやらないわけにはいかないな」
ミッションがどのようなものなのか、行わなかった場合どうなるのか、全く説明がなかったがほとんどのプレイヤーが楓たちと同じようにミッションを行う方向で動いていた。
「じゃあどれをやるかって話になるんだけど……」
ここで四人とも黙ってしまった。それぞれ違う理由で。
楓は思案する。楓一人なら一番楽なのは対人戦だ。適当に悪人一人殺せば片がつく。
だが今回は話が別。葉月はともかく未来と明がいては満足に動けない。身体的には倫理的にも。
明は思案する。楓の超人的身体能力を差し置いても何もわからないダンジョンに潜り込むのは危険だ。モンスターという存在がいるのがわかっている以上いつどこから襲われるかわからない。明は恥じらいながらも自分が楓ほど動けないことを認知していた。楓でも三人を守りながら戦うのは厳しいだろう。
ミッションの期限がいつまでかわからない以上いつまでも来るかわからない情報を待ち続けるわけにもいかない。
「どれを選ぶにしてもある程度の戦闘はあるだろうし、みんなの能力は把握しておきたいな」
そういって明が三人に端末を見せようと近づく――
「おぉー!?葉月じゃねーかぁ!!」
木々の隙間から三人組の男が話しかけてきた。
「ぅあ……早紀くん……」
葉月が消え入りそうな声でつぶやく。
「……誰だ?」
葉月の反応を見て警戒気味に明が聞く。
「あー早紀君……だっけか」
「楓知ってるのか?」
楓が二人になんて説明するか悩んでいると
「こーんにちはぁ。葉月の親友の
葉月とは相対的に甲高い声で楽しそうに笑う。
「なーんでそんなおびえてんだよ葉月ぃ。俺たち親友だろぉ?」
その様子を見ていた楓が遮るように口を挟む。
「まあ簡単に言えば葉月が前いた学校の同級生だよ」
それを聞いた明は葉月の方を見ると察したように早紀の方に向き直す。
「なにかようですか?」
明が無駄な争いが起こらない様に牽制しながらも、こちらに干渉してこないようにある程度の敵意を向けると早紀はそれを面白がるかのようににたりと笑う。
「そんなびびんなよぉ。別に喧嘩しに来たわけじゃねぇ。それともここでバトっちまうか?そーすりゃミッション達成だもんなぁ」
早紀は楽しんでいた。特に戦いたかったわけではないが葉月や楓がうろたえている様子を見て面白がっていた。
「行こう明。時間の無駄だ」
楓は葉月の手をつかむと早紀とは反対方向に歩き出した。楓にとって早紀は許せる存在では無かったが、行動を起こすのは少なくとも今では無いと自分に言い聞かせて前に進む。三人はそれについていくように歩き出す。未来は特に何も言わず葉月の方をじっと見つめている。
「おいおい待てよ。逃げんのかぁ?」
楓たちは無視して進む。
「人の話はちゃんと聞こうって親に教えてもらわなかったのかぁ!?」
楓が足を止める。
「神咲……?」
「あーそっっっかぁ!お前親いないんだっけぇ!!」
楓は体を早紀の方へ向き直すと先ほどとは違う明確な敵意を向けた。
「神咲……いいよ……いこ?」
葉月が声をかけるが楓は止まらなかった。
「早紀……お前一回ボコしてやったの忘れたのか?」
楓が殺気全開で早紀に近づく。
「あれは昔の話だろぉ?今の俺には能力がある!お前ごとき瞬殺だぁ!!」
早紀はそれでも尚、楽しそうに高笑いをしている。
それは楓にとって到底許容できない悪意だった。
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