第6話 再会
楓は体育館を出て、明と別れた場所に向かって歩く。
先ほど撃たれて致命傷になった傷はいつの間にか癒えており、傷だけではなく同時に攻撃によって破れた服まで元に戻っていた。
(どういう原理だ……?)
そんなことを考えていたが今考えても仕方がないと無理やり納得し合流に向けて歩を進めることにした。
随分と時間が経っていたような気がしたが外の様子を見る感じそこまで時間は経っていないようだ。このゲーム内でまともに太陽が動いていたらの話ではあるが。
楓は向かう間に街の様子を見ていたが、体育館に入る前より景色が緩やかに見えた。それは明らかに人の数が減っていることを意味していた。
(まだ戦っている途中なのか……それとも……)
楓は想像する。最悪の未来を。
(いや、大丈夫。今までだって大丈夫だった)
楓は学級委員が決まった直後のことを思い出す。嫌な想像を打ち消すかのように。
楓が学級委員に決まって決め方が立候補者への
しかし中には反発する者もいた。楓の言うことを聞かないものや、あえて邪魔をしようとするもの。中学生らしい子どもじみた反発だったが、クラスの運営の上で、確かな障害だった。
そんなときに助けてくれたのが明だった。明は楓に次いで推薦数が多かった候補者のため、楓に反発している人たちの票も獲得していた。それを誇示することもなく、そんな立場を使って楓を助けてくれた。楓にとって明は全面的に信頼の置ける、精神的に自分を支えてくれる数少ない友達だ。
(そんな明なんだ。きっと大丈夫)
ヴェネツィアの街を歩いているとだんだんと
(やっぱまだ戻ってきてなかっただけなんだな)
そんなことを思っていると水路を挟んだ向こう側からこちら側に向かって手を振る人の姿が見えた。ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、手を頭の上でぶんぶん振っている。
(……誰だ?)
手を振っていた人が楓の方に走ってきた。
楓は先ほどの戦闘のこともあり少し警戒していたが顔が見えたところでその警戒を解いた。
「葉月!」
「神咲ー!」
葉月はあまり活発的に会話に混ざるようなタイプではないが仲の良い子には明るく接する。ナチュラルボブでそれに見合った小さい顔に整った顔立ちをしていてあまり表だってはいないものの、陰でファンができるくらいには容姿に優れている少女だった。
「葉月来てたのか!なんだよーもっと早く言ってくれよー!」
「どーやってだよ」
葉月の顔を見たことによって楓の緊張の糸はかなり緩んでいた。
「てか明と会わなかったんか?あいつは知り合いが出てこなかったって言ってたけど」
楓は分かれる前の明との会話を思い出していた。明が言うにはずっと出口で見張っていたが、知り合いが出てこなかったという話だった。
「明って誰?神咲の友達?」
「あーそっか。そこ接点無いのか」
明と葉月には接点が無く明が葉月のことを把握していないだけだった。本日の葉月の服装は私服だったため、制服で気づくこともできなかった。
「なーんだ。じゃあそれこそ連絡くれよ。寂しかったんだぞ」
「だからどーやってだよ。あたしの能力テレパシーじゃないんだけどー」
葉月がにへらと笑うと楓は大切なことを思い出した。
「……あ」
楓はまだ能力の確認をしていないことに気づいた。初戦闘である程度使えていたので勝手に確認した気になっていたのだ。
神咲 楓
《能力》
「
「なにそれ能力名ー?」
葉月が楓の端末を覗く。
「そそ。今初めて確認した。完全に忘れてた」
「ええー……最初の戦い大丈夫だったのー?」
葉月があきれたように笑う。
「そーいや葉月も戦ったのか!大丈夫だったんか?」
楓が思い出したように聞くと
「うん!なんとかねー」
と端末を見せながら嬉しそうに言った。
横沢 葉月
《能力》
「
「簡単に言うとー見た目が変わる能力みたいな感じー」
「それでどうやって勝ったんだ……?勝ったんだよな……?」
「あ、それはねー」
葉月が言いかけたところで
「君が
知らない年上の女性が話しかけてきた。
その服装は紋付羽織袴を着ていた。白い紋付羽織には家紋が付いていて、その下には着物の代わりに黒いスウェットを着ている。スウェットの上で羽織紐の梵天房が浮いており、袴紐は腰の部分で巻いていた。腰まで伸びた純黒の髪が水面で反射した光を移して鮮やかに光っている。目元には特徴的な骨のようなアクセサリーがついていて、どこかでモデルをやっていそうなスタイルと容姿を持ち、自然と目を奪われるような女性だった。
(見た目的に大学生……高校生か?)
年上の女性は包み込むような笑顔をこちらに向けると穏やかな声で微笑みかける。
「こんにちは。私は
嬉しそうに葉月が続ける。
「明日野さんすごい優しい人でねー!あたしが萎縮しちゃってなにもできなかったのに優しく助けてくれたの!」
その葉月の言動が楓には意外なものだった。
(葉月が初対面の人相手を前にこんなに笑って元気に話すとは……)
嬉しそうな葉月に未来が優しい視線を向け、楓に向き直る。
「あのミッションは能力の試用が目的。ならば別に戦う必要は無いんじゃないかと思ってね。予想は当たり。目の前で能力を見せ合ったら鍵が開いて解放されたよ」
事実、第一ミッションの目的は能力の獲得と試用。一度でも能力を使用すれば体育館の鍵が開き解放される仕組みになっていた。そのことに気づいたのは参加者の中でも極僅かで、ほとんどの人がその能力によって傷付け合っていた。おそらく初めの会場で殺し合いについて言及されたからだろう。
楓は見せ合った後も流れに沿って殺し合っていたため気づかなかった。なにより相手が最初から殺す気満々で楓にとっても倒すべき悪だったため、すぐに戦いにシフトしていた。
(てか鍵かかってたのすら知らんかったわ……)
楓がやらかしたというように、たははと笑う。
「ちょうどいいし三人で一緒に行動しようよー!人数は多い方が良いでしょー!」
葉月がとびきりの笑顔で言う。まるで遠足前の子供のようで、殺し合いに巻き込まれたとは思えない緊張感だった。
「明……俺の友達がいるけどそれでもいいなら。あと明日野さん次第だけど……」
未来は余裕のあるような表情で髪をかき上げる。
「私はかまわないよ。これからもミッションがでることを考えれば人数が多くて困ることの方が少ないだろうからね」
「じゃあ決まり!その明君とやらを迎えに行こー!」
「元気だな……」
三人は明との約束の場所に向かって歩き出した。
後ろから三人組の男が、薄気味悪い笑顔を向けながら着いてきていることに誰も気づいていなかった。
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