第2話 はじめまして
暗い部屋。
巨大な壁には無数のモニターがついている。
その前に立った人物が拳を振り下ろす。
その拳はかかっていたガラスカバーを叩き割り、その下にあるスイッチを押した。
「起きて!起きて!」
楓は何者かに呼ばれて目が覚めた。目が覚めるとそこには金髪の美少女がいた。
「良かった……やっと起きた……」
先ほど楓を起こしていたのは彼女だった。その美少女は髪だけではなく瞳の色まで金色で、服装は私服。まるで部屋でくつろいでいたところを転送させられたようだった。
「……痛て……すみません」
楓は周囲を確認する。そこは体育館のような場所で、たくさんの――ぱっと見ただけでも五千人以上の人が横になって眠っていた。
「なんだこれ……」
困惑する楓をよそにその少女は
「あの……他の人起こすの手伝ってもらえませんか?」
「え……ああ了解です」
まだ思考の整理ができていない楓は困惑しながらも次の人を起こそうとする。そこで大事なことを思い出す。
(……夏希は?)
これだけの人数。皆が楓と同じように集められたのであればその中に知り合いがいてもおかしくはない。特にあの時、別れた夏希はあの怪人の視界に入っていたはず。不安になった楓は少女に問いかける。
「あのっ!空色……青い髪の女子を見ませんでしたか?!身長は156センチくらいで肩幅は広いけど、スタイルはいい……」
いい終わる前に少女が口を挟む。
「えと……わかんないよ。私もさっき起きたばかりだから……」
楓は少女の落ち着いた声で自分が焦って捲し立てていたことに気づく。
「……すみません。そうですよね」
焦る気持ちを抑え、なんとか冷静になる。
「とりあえずここにいる人起こしましょ!そしたら見つかるかも!」
「ですね!了解です!」
楓も周りの人たちを起こし始めた。夏希のことを探しながら。起きた人がまた別の人を起こすのを繰り返していたため、案外早く全員が起きた。皆が起きるとさらに人の多さが更にわかりやすくなった。
起きてすぐは皆混乱していたため、逆に静かだったが少し落ち着いてくると自分の置かれている状況を
だんだんと皆が落ち着いてきたところで前のステージに小さい人が出てきた。楓はその人物に見覚えがあった。
「あのときの人形……!」
それは楓がここで目覚める前に最後に見た光景。そこに写っていた人形のような少女だった。
「コンニチハミナサン。ワタシハミル。コノゲームノアンナイヤクデス。」
人形のような少女――ミルと名乗った少女はAIのようなカタコトの日本語で話す。その様子がさらに少女の人形のような雰囲気を強めていた。
いきなり始まった宣言を聞き、その場にいるたくさんの人たちが騒ぎ出す。「なんだこれは!!」「ゲームってなんだ!!」「ここから出せー!!」。その騒ぎは波のように伝播していき、全体でパニックが広がる。
それは楓も同じであった。
「ゲーム?」
疑問に思っていると、ミルが説明を始めた。
「エエ。ゲームデス。ト、イッテモイマアナタタチニデキルコトハナニモアリマセン。」
いつの間にかミルへの質問は終わっていた。ミルが放つ奇妙な圧によってこの場が緊張感に溢れていた。それに加え、カタコトで話すため聞き取りづらく、一音も聞き漏らさないようほとんどの人が集中して聞いていた。
「コノアトハワタシタチノイウトオリニウゴイテモライマス。」
ほとんどの人。つまりそうでない人もいる。どんな場にも例外はいる。
「いや待て待て、待ってくれ。いくら何でもめちゃくちゃすぎる。俺は起きたらここにいて何も分からないんだ。何か知ってるならちゃんと説明してくれ」
パーマのかかった髪に整った顔立ち、通る声にこの場で発言する度胸。いかにもな好青年が声を上げた。
(よくこの場で発言するな……)
楓も発言するか悩んでいた。しかしここにくる前のことを思い出す。
――おそらく俺はこいつに何かされた。
その思考が楓の勇気を削いでいた。なのでこの場で代わりに発言してくれたのは楓にとって幸運だった。その後の結果的にも。
「ウン。ハタナカカケル。イッテイナイ。メイレイシテイナイ。」
(なんだ⋯?なんかやばい気がする⋯!!)
楓は感じとっていた。怪人と出会った時と同じ危険な気配を。
「ジャ。シヌ。」
次の瞬間、
「きゃあああああああああああ!!!」
1人の叫び声が響いた。それに連鎖するように叫び声と混乱が広がっていった。
「ウルサイ。イッテイナイ。」
そう言うと先程まで叫んでいた人が畑中翔と同じく肉塊になっていた。それによって先ほどと同じく叫ぶ人間が現れ、また潰され――その繰り返し。
その肉塊が10個を超える頃、叫び声は止んでいた。
(……わざとだな)
楓がミルを睨みつける。楓はこの一連のアクシデントのようなものが計画的に行われたものだと考えていた。
(この状況で不満がひとつも出ないわけが無い。遅かれ早かれ誰かが何かを言っていただろう。それを見せしめに殺すことで自分に従わせた……最初からこうすることは決まっていたんだろうな)
ミルは楓の考えが合っていると言わんばかりに楓の方を向き、ニコリと微笑んだ。それを見て楓はさらに憤慨する。とある事情により正義感が強い楓にとってこの殺戮は怒髪天を衝くような所業であった。
その後、その場にいた人たちはミルの指示によってそれぞれ外へ出て行った。勿論楓も一緒に。
その間、楓はミルへの反撃のチャンスを
楓が外へ出るとどこかで見た事のあるような街並みが広がっていた。赤い屋根と暖色の壁が特徴的な建物が所狭しと並んでいる。日本の建物に比べ少し高めの家々が並び、その間には特徴的な水路が広がっている。
「ここは……ヴェネツィア?」
その特徴はヴェネツィアのそれそのものだった。しかしここが本物のヴェネツィアではないことを示すかのようにそこには外国人は1人も歩いておらず、楓と同じ、日本人のみが行き場のない亡霊のように彷徨っていた。
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