バスにて。

八木沼アイ

停車

俺はバスの中で揺られていた。


俺は中でぶら下がっているドーナツのような形をしたプラスチック製の何かに手を預ける。


止まる。


進む。


止まる。


進む。


機械的に動いてるこの機械は実にバスらしかった。止まるとエンジンの揺れから体全体が振動し、指が震え残像が見えるくらいだ。

それを見てる分にはとても面白かった。



だが、それより気になるものがあった。



隣の、ショートカットで色白の綺麗な、きっと同じ年頃の子だ。

背丈は俺よりも10センチほど低いぐらいだろうか。

俺は胸が高まった。

彼女が視線をちらっちらっと横に向け、俺を見ているかのように錯覚させる。実際は、外の景色や次の停車駅をみているだろうに。

彼女は魔性の女なのかもしれない。

きっとそうに違いない。

普遍を保っていた俺の人生に華があるのかもしれない。

俺はその勘違いから、妄想につなげる。

目の前の景色は映り移り変わっていく。

出会いなんてものはない。

しかし、それを信じてしまうのがモテない男の性であり、理由なのである。

自明してしまった。

彼女はバスから降りてしまった。


その時初めて彼女の顔を見た。


彼女の顔立ちは実に大人らしく、横に靡くような目の扱いに、俺は魅了されてしまったらしい。

ソックスは短く、足首までだそうだ。

その姿が幼く可愛らしいように思えた。

大人っぽさと幼さを兼ね備えている彼女は最強であり、学校でもモテているのだろう。

それもかなり。

それゆえに俺は知っていた。


最初から知っていたはずだった。

可愛い子には必ずとして持っているもの。

こちら側からしては忌々しくて堪らないもの。


彼氏である。


事実、彼女は降りるとすぐに、待っていたと思われる男のそばに駆け寄り、俺や他の男子には見せないような素振りと非モテ男子を一撃で落としてしまうような可愛い笑顔を全面に見せつけていた。


俺は見せつけられた。


まるでいじめの現場を見ていて、お前は傍観者だ、と言い渡されたかのような錯覚に陥る。実際そうなのだが。


無情にもバスは扉を開閉し、進み出した。


その子と俺の間は開くばかりである。


俺はバスの中、乗車客にバレぬよう、

バスの揺れと共に体を震わせ、


静かに頬を濡らした。

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バスにて。 八木沼アイ @ygnm

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