第189話 ギルド始動へ
ラナンキュラスの協力を得て、スガワラのギルド設立計画は大きく進展していく。
その過程で、連立ギルド本部施設へスガワラの引っ越しが決まった。
知恵の結晶が抑えている建物は2階建ての民家。ゆえに1階を「ギルド本部」として利用し、2階をスガワラの居住スペースとするつもりのようだ。
ここに身を移したのは、スガワラ自身がそろそろ居候を脱却したいと思っていたのもある。だが、このギルド運営を必ず成功させる、という彼の強い決意の表れでもあった。
元々、酒場の離れで暮らしていたスガワラの荷物は極めて少なく、ラナンキュラスやブルードの手伝いもあってすぐに引っ越しは終わった。
そして――、なんとその空いた離れに入れ替わりでスピカが暮らすことになったのだ。
スガワラは酒場の手伝いを決してやめるつもりはない。だが、ギルドの運営が本格化すれば、両立がむずかしくなるのは目に見えていた。
そこを考慮して、彼の仕事は夜――、酒場のピークタイムに限定された。そして、昼間の営業はスピカが手伝うことになったのだ。もちろん、彼女はスガワラと協力して夜の営業も手伝うつもりでいる。
事務的な諸手続きは、パララのおねだりによってマルトーが滞りなく進めている。ある意味、この2人がギルド設立の影の立役者なのかもしれない。
アレンビーは「マスター・ラグナからの依頼で――」と、なにかと理由を付けて酒場に姿を現した。彼女はギルドの稼働が始まった後も、知恵の結晶からの派遣という位置付けで協力をしてくれる予定となっている。
元々、酒場「幸福の花」ではフリーの冒険家向けに仕事の斡旋を行っている。当面は、その中でスガワラのギルドに割り振れそうなものを流していき、運営していくことになるのだろう。
スガワラはギルドの「一構成員」として、これまで通り提案営業も続けるつもりでいる。ゆえに「多目的ギルド」として王国には申請を上げた。
ブレイヴ・ピラーからはグロイツェルの推薦で、ランギス・ベルモントが派遣されてきた。スガワラ、ラナンキュラスの両名と面識があり、突出した能力こそないものの、ある意味なんでもこなせる便利屋さん。
さらにこれは偶然だが、彼は魔法学校の遠征にてスピカとも面識をもっている。
「いやいや、スガさんにラナさんとまたご一緒できるなんて嬉しいですよ! それにまさか魔法学校のお嬢さんまでも一緒だなんて! 人の出会いとは不思議なもんですな!」
彼は準備中のギルド本部に顔を出すなり、明るく大きな声でそう言った。顔見知りであり、信頼できるランギスの加勢をスガワラも大いに歓迎するのだった。
◇◇◇
「ラナさん、ひとつお願いがあるのですが聞いてもらえますか?」
ギルド本部兼スガワラの住居にて、ひと仕事終えたスガワラは隣りで休んでいるラナンキュラスに声をかける。
空は茜色に染まり、もう一時すると街を薄暗いベールが覆うであろう時刻。どうやら今日は定休日で、ふたりはこの1日をギルド設立の準備に充てていた。
「どうしました、スガさん? また改まって?」
「はい――、ギルドの名前についてです。酒場の名前をお借りしたいと思いまして……」
「……『幸福の花』をですか?」
「はい、もちろんラナさんがよければですが――」
「断る理由がどこにあるんですか? 一緒に盛り上げていきましょう、こっちの『幸福の花』も」
この日、諸々の手続きが無事に終わり、晴れてブレイヴ・ピラーと知恵の結晶の連立ギルドが誕生した。
さまざまなギルドが乱立するアレクシア王国にて新たな――、小さくも可憐な花が1輪咲き誇ろうとしている。
――多目的ギルド、「幸福の花」が。
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