第181話 捨て身
「テンペストっ!!」
スピカは空中でしっかり時間をかけて呪文を練り上げ、上級魔法を放ってきた。テンペストは他の魔法と比較しても圧倒的な範囲が最大の武器となる。
霧のかすかな流れから魔法の発生位置を特定する。場所は私の後ろ――、ここから全速力で走れば避けられるか?
私の身体は、頭で考え結論に至る前に行動を開始していた。テンペストが広範囲ゆえにもつ最大の欠点……、中央の安全地帯を目指して私は振り返って全力で走る!
傍から見れば自ら竜巻に突っ込んでいくように見えたかもしれない。事実、わずかでも遅れたら安全地帯の手前が最大の出力をもっているのだ。無数の風刃に体を引き裂かれズタズタにされてしまう。
でも――、私の瞬発力なら絶対に間に合う!
◆◆◆
間一髪――、間に合ったかしら?
でも、テンペストを避けるにはあれが最良の選択。同じ状況ならきっとボクだってそうしていた。
スピカさんのテンペストはとても強力だった。ボクの立ち位置まで強風が吹き荒れ、髪を複雑に乱していく。
でも、きっと上から見下ろしている彼女も気付いたでしょう。アトリアさんは直撃していない。
浮かんでいればたしかに安全かもしれない。でも、あの距離間はアトリアさんと同時に、スピカさん自身の攻撃も命中させにくくしている。それにアトリアさんの立ち回りはまるで魔法使いらしからぬ機敏な動き。
剣を構えているだけあって、あの動きはまさに「剣士」そのもの。遠距離からただ狙い撃つだけでは到底捉えることはできないでしょう……。
◆◆◆
巨大な
空中に氷塊を次々と生成、それを踏み台に蹴飛ばして上へ上へと上がっていく。彼女の運動神経あっての動きだけども、とても即席で思い付きたやり方とは思えない。
「くふくふくふ……、
見る見るうちにアトリアさんはスピカの元へと近付いていく。まさか、相手まで空中にやってくるとは思っていなかったんだろうね?
「さてさて……、どうする、スピカ? この私にお前の信念を見せてみな?」
◆◆◆
審判として立つアレンビーが、パララが――、さらにセントラルの学生たち、スガワラとカレンも驚いていた。
空中に生成される氷の足場、大きさは学び舎の机くらいだろうか。それをまるで断崖に生息する山羊が崖を駆け上がるように蹴飛ばして、アトリアはどんどん高度を上げていく。
そして、宙に浮かぶスピカに迫りつつあった。
スガワラは無意識にアトリアの動きを、2Dアクションゲームのように見ていた。乗ったら沈む足場をテンポよくジャンプして登っていくゲームの動きがちょうどあんな感じだったと――。ただ、それを今目の前で行っているのは生身の「人間」なのだ。
◇◇◇
迫りくるアトリアに対してスピカは非情の選択をする。足場生成に魔力を使っているのなら、重圧を防ぐ結界の展開はできないだろう、と。
スピカは一瞬、苦悩に表情を歪めながらスティックの先をアトリアへ向ける。
「落ちなさい! アトリアっ!」
「……見くびるな! 落ちるのはあなたよ、スピカっ!!」
アトリアは最後の一蹴りで大きく跳び上がり――、スピカのさらに上へと上がっていった。そこにスピカの重力魔法が襲い掛かるが、重圧を受けた身でそのままスピカの元へ突っ込んでいく。
スピカは身を翻しアトリアの落下を躱した――、と思った瞬間、彼女の左手がスピカの足首を掴んでいた。
アトリアの手は力強く――、まるで万力のようだった。地面に落ちるまでにこの手を振り払うのは、スピカの力ではとてもできそうにない。
さらにアトリアは思い切り左手を引いて、落下の勢いそのままにスピカを地面に叩きつけようとしていた。
◇◇◇
「無茶だろ、あんなの!? ただじゃ済まねえぞ、ふたりとも!」
ベラトリクスは思わず立ち上がって叫んでいた。
「いいえ、『無茶』だからいいんでしょ? 黙って見てなさい、ニワトリクス」
シャウラは至って冷静に、闘技場の様子を見つめている。
「このまま落ちたらふたりとも無傷では済まない。いや――、この状況ならむしろスピカの方が危険かもしれない。だからこそ――」
「守るしかないってわけだ? 自分もアトリアもまとめてな?」
サイサリーとゼフィラ、この2人は……、いや、シャウラを含めた3人は次の展開をすでに予測していた。
スピカは自らのダメージを軽減するため、反重力を使って落下の衝撃を和らげるに違いない。それは結果的にアトリアも守ることになるのだ。
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