第179話 拮抗
ルーナは審判として立ちながら、スピカの重力魔法を感じ取っていた。反重力魔法でアトリアとの距離を一気に詰め、高圧力で一気に叩き潰すつもりだ、と。
「くふくふ……、スピカもそれなりにやるようだけど、訓練は無駄じゃなかったようだねえ」
出力を上げてアトリアの動きを封じようとしたスピカ。しかし、彼女はスピカの重力を突っ切って前進し、木剣の一閃を繰り出した。
スピカはそれを間一髪、大きく空へ舞って――、というより空へ落下するような動きで回避してみせる。
そのまま空中で静止して、アトリアを見下ろしながらスピカは呟く。
「あたしの魔法を……、突破してきた?」
アトリアは空中を睨み付けながら、木剣を引いて再び構える。肩が上下しており、一瞬のやりとりといえども、それなりの消耗があったことが窺えた。
「……やれる。スピカの重力の中でも動けるわ」
かすかに呼吸を乱しながらも、アトリアは手応えを感じていた。スピカの重力魔法に対処できなければ、それこそ一方的な状況さえありえるのだ。
だが、それはない。アトリアは確信する。付け焼刃のように教わった「魔空結界」だが、この戦いで十分に使えるものだと。
◇◇◇
「今の――、スピカは重圧でアトリアを潰そうとした?」
サイサリーはいつかのバトルロイヤルで自分もくらった重力魔法を思い出しながら話をする。
「でしょうね? でも、アトリアはそのまま前進して剣を振るった」
「さすがのアトリアでも力技じゃないよなー? なら、結界か。しっかり対処法を身に付けてたってわけだ?」
「あーっ!! なんかこう……、頭にくるぜ! あいつら2人で勝手に先に進んでいく感じがよぉ!」
同級生たちは、アトリア、スピカそれぞれの動きに一喜一憂しながら緊張した面持ちで戦いを見守っている。それと同時に、彼女たちには負けられない、と自らの心も鼓舞するのだった。
◇◇◇
スガワラとカレン――、少し離れてマルトーは2人の戦いを無言で見つめていた。立場上、どちらかを応援しているわけではない。だが、2人の一挙手一投足に強い気持ちが込められているのが伝わって来ている。
ルーナが「意志を貫き通すため――」と口にしたように、彼女たちはお互いの意志をぶつけ合っているのだ。
「彼女たちの詳しい事情は知りませんが……、気持ちの強さが勝敗を分けたりするのでしょうか?」
スガワラはカレンに――、というより自分への問い掛けのようにそう呟く。
「『戦い』ってのは非情でねぇ? どんなに気持ちが強かろうが逆に弱かろうが、勝敗を左右するのは結局のところ、『実力』なのさ?」
カレンは闘技場を見つめたまま、スガワラの言葉に答える。
「ちょっとした腕試しでも、親の仇との果し合いであっても、気持ちの強い者が必ずしも勝利するなんてことはありえない。勝った方はともかく、負けた方の気持ちまで否定するなんておかしな話だろう?」
カレンの言うことは至極当然で、あまりに真っ当だった。命のやりとりをすることも珍しくない「剣士ギルド」に所属する彼女の言葉はそれだけでも十分説得力がある。
ゆえにスガワラも無言で頷いて見せる。しかし、彼女の言葉にはまだ続きがあるようだ。
「ただね……。実力がギリギリまで拮抗しているのなら、気持ちが最後の一押しくらいにはなるかもしれないよ?」
そう言ったカレンの視線の先にいるのは、木剣を構えたアトリアの姿だった。
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