◇ 間奏18 前
「鎧の修復が終わったんだねぇ? また、いつもの『鉄仮面』に戻るのかい?」
ブレイヴ・ピラー本部、シャネイラの部屋。ここには今、「金獅子」カレン・リオンハートと「賢狼」グロイツェル・ロウの2名が呼ばれていた。
シャネイラの顔は仮面に包まれ、その身も鎧を纏っている。まものの大群と戦った際に損傷していたものだが、この度彼女の元へ戻ってきたようだ。
「私はどちらでも構いませんが――、周りのものはこちらの姿の方が落ち着くのではないですか? 素顔を見るだけで逃げ出す輩もいますから」
「――マスターにはなるべく安全なお姿でいてもらいたいものです。私が留守だった際、まさかサーペントの者が直接狙ってくるとは……」
「グロイツェルが気にすることではありません。私が勝手に動いたゆえ、ですから。それにこうして無傷でいるのです」
先日、シャネイラがセントラル魔法科学研究院を訪れた時、剣士ギルド「サーペント」の人間が彼女に罠を仕掛け、その命を狙おうとした。
学校まではカレンが同行していたのだが、シャネイラが狙われた際は別行動をとっていたのである。
彼女を襲ったのは、サーペントの中でも手練れとして名の通っている戦士オージェと「迅雷」の異名をもつ魔法使いアリー。それに加えて、セントラルの学生ポラリスと雇われの男が2人ほど加担していた。
本来なら、よほどの強者であっても生きて帰るのが困難であろう戦力からの奇襲。しかし、「不死鳥」シャネイラの前ではそれこそ全くの「無力」だったのだ。
腹部に一か所、刃物に刺された傷こそあったものの、ブレイヴ・ピラーの仲間たちが駆け付けた時には単なる「服の傷」となっていた。シャネイラはおそらく敵との交戦中に自らの傷を回復魔法で治癒してしまったのだ。
この件に関して、サーペントはあくまで「一部の構成員の暴走によるもの」として、多額の和解金をブレイヴ・ピラーに払って事を治めようとした。
シャネイラもあくまで表面的には事を荒立てるつもりはなく、ここから大きな騒動に発展することはなかった。
彼女はサーペントからの和解金を全額、セントラル魔法科学研究院へとまわした。その理由は、カレンとその連れが校内で学生の魔法使いと交戦、校内の一部箇所に大損害を与えていったからだ。
「――ウェズン・アプリコットに関しては、ラナンキュラスのやり方がもっとも的確で早い解決法だったと思います。彼女のようなタイプは肉体ではなく、心をへし折る必要があるでしょうから。決して届かない頂を見せつけたのはよかったでしょう」
シャネイラの言葉を聞いてカレンはがりがりと頭を掻いている。結果的にはうまくいったのかもしれないが、ラナンキュラスを連れていった目的としてカレンが想定していたものではなかったからだ。
「ウェズンからは医療施設で療養をさせながら、エリクシルについての情報を聞き出していくつもりです。――とはいっても、シリウス・ファリドがあんな形で名乗り出た以上、あまり多くは期待できないでしょう」
ラナンキュラスがウェズンと戦い、シャネイラがサーペントの者から襲われた日の翌日から、セントラルではさまざまな動きがった。
ウェズン・アプリコットは一旦エリクシルの使用を伏せたまま、ブレイヴ・ピラー管轄の医療機関にて治療を施しつつ尋問をしていく流れとなった。学校側には、自らの意思で休学を申し出たことになっている。
ポラリス・ワトソンはセントラルを「退学」となっているが、彼女はもうこの世に存在していない。学校は事実を知ったうえで、ブレイヴ・ピラー、サーペントと協議し、在学生にはこうしたかたちで伝えるに至ったのだ。
そして、シリウス・ファリド――、彼は自ら衛兵団の元へ出頭し、禁止薬物「エリクシル」を使っていたと自供したのだ。その内容は、あくまで一個人の好奇心でクスリの改良を行っていた、といったもの。他の人間・もしくは組織の関与を匂わせる供述は一切なかった。
サーペント、さらにアトリアやウェズンのことを知っている者にとってこれは「尻尾切り」以外のなにものでもなかった。ただ、シリウスからの情報が望めないとなると、ウェズンからそれ以上のことが聞き出せるとも思えなかった。
「エリクシルとサーペントの繋がりに関しては、引き続きミラージュに調査を継続させます。そしてカレン――、あなたには別の任務を与えます。あなた自身が動くか、隊の者に任せるか含めて、あなたに委ねましょう」
シャネイラから新たに下された任務。この内容にカレンは驚かされるのだった。
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