第22話 不動の決断
第169話 衝撃
セントラル魔法科学研究院、約1か月に及ぶ長い期間に一度だけある全校生徒の登校日を迎えていた。
アトリアは、ブレイヴ・ピラー専属の医療機関で治療を受け、そこを後にしていた。彼女のエリクシル依存症は軽度のレベルで、ほぼ完治している。万が一、喉の渇きがどうしようもなくなったときへの対処として、一応は薬を渡されていた。
『カレンを筆頭にうちの人間は、チャトラちゃんがエリクシル使ってたこと揉み消す気満々なんで、このひと月くらいは血液検査とかだけには注意して? それを乗り切ったら体内からの反応もキレイさっぱり無くなるだろうから』
処方薬を受け取った際に、リンカが話していた言葉だ。本来ならエリクシルは、どういった経緯にしろそれを利用した者に対して厳しい罰則を設けている。
魔法使いであれば、悪くするとその界隈で永久に追放をくらうことさえあり得るのだ。
編入式の際、集められた講堂にアトリアは向かっていた。今日もここで一度全校生徒向けの集会があった後、各学年に分かれ改めての集会があるようだ。
『……そういえば、入学の日は私とスピカだけ妙に早い時間に来てたのよね』
講堂を訪れると、すでに多くの学生が集まっていた。しかし、彼らの様子はなぜか落ち着きがなくざわついている。何日かぶりに友人と顔を合わせての騒がしさとはまた違った――、言葉にするなら「戸惑い」を含んだざわつきを感じるのだった。
「――アトリアっ!!」
名前を呼ばれ振り返ったアトリア、その先にはゼフィラが飛び跳ねながら大きく両手を振っていた。隣りにはシャウラとサイサリー……、それにベラトリクスの姿も見える。
彼らと顔を合わせるのは十数日ぶりくらいだろうか。「久しぶり」と言うほどの期間でもないのかもしれない。ただ、それでも懐かしく感じる同級生たちの顔を見て、アトリアの顔は自然と綻ぶのだった。
ただ、彼らと合流したことでアトリアはこの後、衝撃の事実を知ることになる。
この登校日までの短い休暇の期間。セントラルでは様々な変化が起きていた。その1つが第一演習場――、正確には演習場付近の利用に関してのルールだ。
これまでは細かいルールは設けられていなかった。元々、闘技場施設は許可がなければ利用できないようになっており、その周辺地域も学生が活発に使っていた場所かというと疑問符が付く。
ただ、今回その周辺含めて立ち入りが制限されるようになった。どうやら休み期間中に、そこで相当強力な魔法を使った者がいるらしく、一部のエリアにかなり大きな損害が出ているそうだ。
これは正直、アトリアを含めたほとんどの学生にとってあまり関心のない話だった。――というより、別の話の衝撃が大き過ぎたのであろう。
まず4回生を騒がせたのが、学年代表を務め、風紀委員会の委員長も兼任していたシリウス・ファリドがこの期間に自主退学していたこと。
このまま卒業までいけば首席はほぼ間違いないと言われ、今の段階ですでにいくつかの魔法ギルドから誘いの声がかかっていた彼だ。それが突然の退学。懇意にしていた同級生も事情をまったく聞かされておらず、それが余計に混乱に拍車をかけていた。
続いて、3回生ポラリス・ワトソンも自主退学を申し出ていた。
実はセントラルで、1年生もしくは編入生が最初の長期休暇期間中に退学を申し出るのは珍しくない。授業のレベルについていけず、自主的に進路を変更する生徒は毎年一定数いるのだ。
しかし、こういった学生は残念ながら退学前の段階である程度、予期されるものなのだ。成績が振るわなかったり、明らかに友人がいなかったりと……、「自主退学」と話が出た際、「ああ、やっぱり……」と思われてしまうことが多い。
ただ、ポラリスはこうした条件には決して当てはまらない。セントラルの教員はただ事務的に「家庭の都合」と言ったが、それが果たしてなんなのかはどうやらわかりそうになかった。
彼女の退学は同級生――、とりわけ編入生たちにはそれなりの衝撃を与えた。アトリアは専攻する分野の違いから接点こそ少なかったものの、ポラリスとは友人のつもりでいた。その彼女が自分に何の知らせもなく、退学していたことはそれなりにショックだったようだ。
それ以上に3回生たちを驚かせたのは、ウェズン・アプリコットの休学。もっともこれは「退学」ではなく、「休学」であり、復帰の予定はあるようだ。ただ、それがいつの話かは明確ではない。
彼女が頻繁に体調不良を訴えていたのを皆、知っていた。どうやら今回の休学も本格的な療養期間を設ける必要があると判断されたためらしく、同級生たちは残念に思いながらもある種の納得を得るのだった。
ウェズンは、現4回生を含めたセントラル在校生全員の中でもおそらくトップに君臨している生徒である。それゆえ、彼女の休学は同級生以外にもそれなりの衝撃と動揺を与えた。
ただ――、それでも、アトリアやその仲間たちが受けた衝撃は軽いものと言えた。なぜなら彼女たちにとって「もうひとつ」の内容があまりに強烈すぎたからである。
――スピカ・コン・トレイル「退学」。
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