第154話 予期

「――さすがはカレン・リオンハート様。いいえ、これはブレイヴ・ピラーという組織ゆえに成せることでしょうか」


 ウェズンに対してカレンは、単刀直入に「エリクシル」について尋ねていた。ただ、明らかに学校関係者にしかわからない情報を織り交ぜ、言い逃れの余地をなくそうともしている。


 その気になれば、ウェズンの血液検査から部屋の捜索含めて手を回すことすらほのめかしていた。

 それでも、カレンの胸中は彼女が単なる「被害者」であることを願っている。なにも知らずにクスリを摂取していただけなら救いの手を差し伸べられる、と。


 しかし、ウェズンのあまりに落ち着き払った反応は、エリクシルについて初めて知ったアトリアのそれとはまるで違っている。ゆえに――、彼女は「悪魔のクスリ」をなにか理解したうえで摂取している可能性が高かった。



「うふふ……、『エリクシル』の使用は法で固く禁じられています。私がこの身を守るためなら、カレン様ですら手にかけるとでも思いましたか? そのため――、護衛の『魔法使い』を伴って来たのですか?」


 笑顔で問い掛けるウェズン。彼女の視線はカレンと、その隣りに立つフードを深く被った者へと向けられる。

 明言こそ避けているが、彼女はクスリに手を染めていると認めているようなものだった。


「……安くみられたもんだねぇ? 2人で来たのは、私が手ぇ出したら無傷ですませる自信がなかったからさ。魔法使いの方が抑えがきくと思ってね?」


「カレン様……、それほどお調べなら、私がセントラルここでなんと呼ばれているかご存知なのでしょう? 並みの魔法使いで本当に抑えられるとでも――」



 リンカの忠告があったおかげか、カレンはこの展開を予期していたのだろう。ただ、彼女としては望んでいないものだ。かすかに表情を曇らせた後に口を開いた。



「ああ、よーく知ってるよ? の再来とかなんとかだろう?」



 カレンの言葉と同時にフードを外す連れの者。藤色の美しい髪が露わになり、口元にはうっすらと笑みを浮かべていた。


「――はじめまして、ウェズンさん? ラナンキュラス・ローゼンバーグと申します」



◇◇◇



 学生の話から、彼女とその友人が魔導書狩りと遭遇した場所へやってきたシャネイラ。そこはセントラルの校舎から最寄り駅を結ぶ道からは外れた、小さな商店がいくつか並ぶ薄暗い道だった。


『寄り道でもしていたのでしょうか? 人通りが少ない道ではありますが――』


 周囲を見回す彼女は、石畳の地面に点々と……、液体を溢した跡があることに気が付く。それは蛍光色をしてかすかに発光していた。冒険者が遺跡などに入った際、マーキングするために用いる塗料。当然、シャネイラも知っているものだ。


『魔技師見習いなら持ち歩いていても不思議はない……、といったところでしょうか』


 地面の痕跡は進行方向へ尾を引いているようだ。シャネイラはそれを追って、元いた道からさらに奥深くの、人通りの少ない方へと入っていく。

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