第21章 三者三様

第151話 不死鳥と金獅子

 セントラルの学生が長期休暇に入ってから2週間ほど時は流れた。


 今日は校内の講義室にて、魔法科学の研究発表が行われる予定になっている。ブレイヴ・ピラーのシャネイラは2人の人間を伴ってここを訪れていた。

 もっとも、1人は護衛兼任で付き添っているカレンだったが、もう1人はシャネイラの――、というよりはカレンの連れとしてやって来たようだ。



「私は研究報告を聞いてきます。あなたがどうするかはお任せしますが、カレンには念のため言っておきます。――無茶はしないように」


 カレンは軽く笑って見せ、シャネイラに背を向け手を振った。その後ろを、彼女よりやや背丈の低い漆黒のローブに身を包んだ女性がついていく。シャネイラは少しの間、2人の背中を見つめていた。そして――、かすかに口元を緩めるのだった。



 カレンは3回生の女子寮を訪れていた。呼び出したのはウェズン・アプリコット。エリクシルの中毒症状が出ていると情報の入った学生だ。


 ほどなくして女子寮の玄関にウェズンが姿を現す。彼女はカレンと――、その横に立つフードで顔を隠した人の姿を見て首を傾げていた。


「カレン・リオンハート……様? 先日、わずかですがお目にかかりました、ウェズン・アプリコットでございます。今日はどういったご用向きで?」



 魔法使いの彼女にとって剣士ギルドの――、ましてやブレイヴ・ピラーの「金獅子」から呼ばれる覚えはなく、表情は笑顔の中に困惑を含んでいた。


「悪いねぇ、ウェズンちゃん? ちょーっとばっかり静かなところでお話したいんだけど、時間あるかな?」


 カレンは眉毛を八の字に曲げて申し訳なさそうな顔付をしている。ただ、彼女の「静かなところで――」になにか含みを感じたのか、ウェズンは小さく頷いて見せた。


「今日はなにか……、魔法学の研究発表があるようでして、学外の方がたくさんいらしているようです。静かなところとなりますと――」


 頬に人差し指を当てて首を捻るウェズン。それを見つめるカレンに、隣りいる者が少しだけ背伸びして耳打ちをしている。


「学生がお休みならさ、のあたりは静かなんじゃないかねぇ?」


 カレンの提案にウェズンは少しの間をおいてから笑顔で答えた。


「――ええ。少し歩きますが、第一演習場のあたりまでいきましょうか? あのあたりならきっと誰もいないでしょうから」



◇◇◇



 カレンの背中を見送ったシャネイラは、目的の講義室へ足を運ぼうとする。しかし、たまたま視界に入った校門前にいる見知らぬ女子学生の元へと歩み寄っていた。

 なぜならその学生は膝に手を付き、息も絶え絶えになっていたからだ。まるで、ここまで全力で走って来たかのように。


 学生はシャネイラに気付くと、飛びつくように彼女の元へと駆け寄って来た。


「あのっ!! たっ……、大変なんです! ポラリ…ちがっ! 友人が!!」


 慌ててなにかを伝えようとする学生。シャネイラは、彼女が一瞬口走ろうとした名前を気に留める。



「まずは落ち着きなさい。ゆっくりと……、私になにがあったのか話せますか?」



 シャネイラは女子生徒の背中を軽くさすりながら、まずは息を整えるよう促した。


「す…すみません。あっあの、この近くで! 登校中に魔導書狩りに襲われまして! 抵抗した友人が連れて行かれてしまったんです!」



『魔導書狩り……? 場所と時間帯、ともに過去の被害とはずいぶん異なりますが……』



 刹那の時、シャネイラの脳裏に疑問が過ったが、彼女はすぐに頭を切り替える。


「襲われた場所を教えてください。そして、あなたはセントラルの教員に報告を」


 学生に具体的な場所を聞き、シャネイラは行き先への最短ルートを頭に浮かべていた。


『まったく……。連れがいないときに限って面倒事が起こりますね。私が行くしかないではありませんか』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る