第143話 「力」の思い出
「スピカさんは勉強熱心ですね……。私は長期休暇中の登校はちょっぴり憂鬱ですぅ……」
今日も図書室にいると、ポラリスと会いました! 彼女は魔技師の研修授業があって登校してきたようです。
「あたし、魔法について調べたり練習するのは好きなんですが、他にやることが思い付かないんです。今までもずっと魔法一筋でしたから」
「『好き』でいるのは立派な才能だと思いますよぉ。私もマジックアイテムの研究とか作成は好きですが、時々負担に感じることもあります。毎日続けられるスピカさんは本当にすごいと思いますよぉ」
「ありがとうございます! ポラリスはどんなアイテムをつくったりしてるんですか?」
魔技師の人たちがどんな授業をしているのか興味がありました。そっちの方面を志望している知り合いはポラリスしかいませんので、この機会に話を聞いてみようと思います!
「えっとぉ……、私は自己強化の魔法を少し使えますので、その効果を道具に付与する研究をしています。――例えば、腕力を強くする魔法を手袋とかに付与できれば、実際に効果術式を使えない人でも魔法の恩恵を受けられるようになりますから」
ポラリスは少し照れくさそうにして、レンズの厚い眼鏡の位置を何度も調整しながら話してくれました。
「それはすごいです! その手袋をつけたらあたしも怪力になれるわけですね!」
「で…でもぉ、一時的ならできなくないのですが、付与した効果を維持するのがとても難しくて……、今の魔法科学ではなかなか実現できないんですぅ」
付与した効果を長時間維持する方法は、今の魔法科学学会でも課題の1つとなっているとポラリスは教えてくれました。それができれば、「強化アイテム」として持ち出しが可能となり、マジックアイテムの界隈は劇的に変わると言われているそうです。
「聞き覚えのある声かと思ったら……、奇遇ですね? スピカ、ポラリス?」
どこかで聞いた声が背中から聞こえてきました。あたしとポラリスは揃って振り返ると、そこにはあの伝説の「不死鳥」、シャネイラ様が立っていました。
「「シっ…シャネイラさ…ま!? どうして――」」
シャネイラ様は、護衛と思われる体がとても大きい男の人を2人伴って図書室にいました。
「フフフ、今日は魔法学の論文発表会がありまして。今回、私は見学のみでしたが、参加させてもらっていたのです。そのついでに少し調べ物をと思ってここに寄った次第ですよ」
剣士ギルドの頂点に立つシャネイラ様ですが、魔法研究の世界でも非常に名の通ったお方のようです。一体どうやったらこの人のようになれるのでしょうか? アトリアの憧れの人は凄すぎます。
「――アトリアはいないのですね?」
あたしは、学校がお休みの期間はアトリアが家に帰っていることを話しました。きっとあたしたちがシャネイラ様と会っていたと言ったら羨ましがると思います!
それにしてもこのシャネイラ様は、人間離れしたような美しさをもっています。身体も決してムキムキの筋肉が付いているわけではなく、「王国最強」と謳われる力がどこに眠っているのか不思議でなりません。
「――スピカ、私の腕がどうかしましたか?」
あたしが腕をじっと見つめてしまっていたので、奇妙に思われたようです。
「いっ、いいえ! 細くてキレイな手をしていると思っただけです! ポラリスみたいに『ストレング』で強化とかするのかなーっとか考えていました」
「フフ、そういえばポラリスは自己強化の魔法が使えるのでしたね」
「はっ…はいぃ! ストレングくらいのものですが――」
ポラリスは突然話を振られ、慌てた様子で返事をしています。そのあと、あたしと同じようにシャネイラ様の腕に視線をやりました。
「私の『力』が気になるのなら……、少しだけ試してみますか?」
「――えっ?」
シャネイラ様は微笑みを浮かべながら左手を広げて、ポラリスの前に出しました。護衛の人たちが驚いて声をかけています。
「フフ、単ある『戯れ』ですよ? すぐに終わります」
ポラリスの視線はシャネイラ様の顔と手のひらを2度ほど往復し……、席から立ち上がって差し出された手を掴みました。
あたしはいつかの食堂でのやりとりを思い出します。同級生では女の子とはいえ、とても力持ちのゼフィラが、強化したポラリスの力に敵いませんでした。
「――遠慮はいりません。思い切り押してみなさい?」
次の瞬間、ポラリスの腕が淡い光を放ちました。ストレングで強化して、力いっぱいシャネイラ様の腕を押しているようです!
数秒後、ポラリスは両手でシャネイラ様の手を押し始めました! どうやらほんの少しですが押し返されているようです。表情を見てみると、ポラリスが全力を出しているのは明らかでした。一方でシャネイラ様は涼しい顔で見下ろすような目をしています。
「――もうっ! 限界ですぅ!!」
ポラリスはそう言うと手を握ったままその場に膝を付きました。シャネイラ様をポラリスを引っ張り上げるようにして立たせた後に手を離しました。
「失礼しました。ずっと以前に――、こうして力比べをして遊んだ女性がいるのです。ポラリスの『ストレング』の話を聞くと懐かしくなってしまいまして――」
「強化した両腕で押したのに……、押し返されるなんて……、強すぎですぅ」
あたしもびっくりしました。あのゼフィラも屈したポラリスのストレングを片手で押し返すなんて、どこにそんな力が潜んでいるのでしょうか。あたしと同じように護衛の男の人たちも驚いた顔をしていました。
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