第142話 1番

「――最後の演習はスピカさんに助けられたわね? こんなに頼れるパートナーは初めてだったわ?」


 今日は図書室で魔法学のお勉強をしていました。すると、隣りの席にウェズンさんがやってきました。

 普段はちょっとした会話もはばかられる雰囲気の教室ですが、今は人が全然いなかったのであたしは気にせずお話をしています。


「お役に立ててうれしいです! それより、お身体は大丈夫ですか?」


「ええ、心配かけてごめんなさいね? スピカさんがあんまりにすごかったから私も張り切り過ぎてしまったみたいなの?」


 ウェズンさんは優しい笑みを浮かべてそう答えました。


「あたしなんてウェズンさんに比べたらまだまだです。同級生のみんなもウェズンさんには一目置いているのがわかりますから!」


「うふふ、なんだか怖がられてる気もするけど……、仕方ないのかしらね?」


 たしかにウェズンさんとお話しているとき、アトリアやベラトリクスはとても警戒しているのを感じます。

 あたしも時々、彼女の放つ覇気に気圧されることがありますが、こうしてふたりで話していると他の皆さんと変わりありません。ふわふわとした雰囲気がとても可愛らしい同級生だと思います。



「今はみんなに認められて……、私自身も今の3回生を引っ張っていると自覚しているわ。だけど、1回生の頃なんて全然パッとしなかったの」


「そっ……、そうなんですか!?」


 なんだかとても意外でした。てっきり入学してからずっと学年のトップに君臨している人だと勝手に思っていたからです。


 あたしは同級生の皆さんが、1年2年とどう過ごしていたのかとても興味がありました。せっかくの機会ですので、ウェズンさんにそれを尋ねてみます。


「今、成績上位のシャウラさん、ゼフィラさん、サイサリーくんは1年の時からとても優秀だったの。特にシャウラさんの実力が目立っていた印象ね」



 入学当時、ウェズンさんは火属性の魔法と得意としながらも、標準魔法の他4属性も同程度に操ることができたそうです。ですが、今みたいにどの属性でも上級まで使えたり、詠唱速度が他人ひとよりはるかに勝る、といったことはなかったみたいです。


「最初は『全属性を使いこなせる』って先生方にもてはやされていたの。でもね――、そこから全然伸びなかったの。いわゆる『器用貧乏』とでも言うのかしら? どの属性も中級まで使うのがやっとで、詠唱もあまり早くなかったの」


「信じられません……。ウェズンさんにもそんな時があったんですね」


「――私ね、1番になりたかったの。トップに立つってすごいことなのよ? 2番の人の代わりもそれ以下の――、どの人の代わりだってできてしまう。だけど、他の人はどうやっても1番の人の代わりにはなれないの。つまり唯一無二の――、掛け替えのない存在なの、『1番』って」


 今の3回生で間違いなくトップにいるウェズンさんが言うと、言葉の重みが違ってきます。彼女は1番になるために日々努力を重ね、1年の後期には徐々にそれが成果となって表れてきたと言っていました。

 2回生になる頃には、当時成績トップだったシャウラさんを追い抜かして今の地位を築き上げたようです。



「ちょっと喉渇いてきたわ。誰も見ていないし、少しくらいなら大丈夫よね?」


 ウェズンさんはいたずらっぽく笑うと、鞄に入れている小さな水筒を取り出してお水を口に含みました。


「そういえば、アトリアもよくお水を飲んでいました! あんまりたくさん飲み過ぎてお腹がちゃぽちゃぽになっていましたよ!」


 あたしは軽い雑談のつもりでアトリアの話をしました。ですが、あまりおもしろい話ではなかったのでしょうか、ウェズンさんの表情から一瞬笑顔が消えたのをあたしは見逃しませんでした。

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