第140話 ほんの少しのお別れ
「総合評価はやはりウェズン・アプリコットがトップ。ですが、驚くべきは次点……、スピカ・コン・トレイルです」
前回の魔力測定、他にもさまざまな授業から3回生の評価が決定したようだ。後日になるが、上位10名までは学内で公表されるのがセントラルの決まりでもある。
「元々実戦感覚は悪くない子でしたが、急激に力を付けてきましたね? 彼女の放ったテンペストの測定値も極めて高いものです」
「たしか、重力系統の魔法も扱えるようになったとか? これは後期が楽しみですね。いやいや……、今年は進学組もそうですが、編入生が優秀だこと」
3回生を担当する教員たちは成績の順位付けを終え、その結果を見ながら各々の感想を述べていた。
ウェズンがトップに立つことは誰しもが想定していた。しかし、2番手に関しては多くの者がシャウラ・ステイメン、もしくはアトリア・チャトラーレと予想していたようだ。
ところが、前期の授業後半にかけて大きく評価を上げてきたのがスピカ。元々は全体の中間くらいだったのが、終わってみればウェズンに続く2位。さらには特異魔法の才能まで開花させ始めた。ゆえに、これまでは彼女にそこまで注目していなかった教員たちも目の色を変えているようだ。
「――他の生徒ももちろんですが、今後のさらなる成長が楽しみでなりませんな! ひょっとするとラナンキュラス以来の『卿』の名を冠する者になるかもしれませんよ」
◇◇◇
「……生徒間の連絡用に『写し紙』を配ってくれるなんて、こういう細かいところ含めて、さすがセントラル、といったところなのかしら?」
セントラルの女子寮、部屋でアトリアは荷物をまとめていた。約ひと月の長期休暇に入り、この期間は家に帰るつもりのようだ。スピカは休みの期間も寮に残って暮らす。彼女の故郷の事情を知っているアトリアはあえてそこを尋ねようとはしなかった。
「……ゼフィラにシャウラ、それにサイサリー……、一応ニワトリクスにも写し紙を配っておきましょう? みんな一旦は家に帰ると言っていたから」
「はい! あたしも一緒に行きます。ウェズンさんは寮に残ると言っていました」
「……そう、ポラリスは元々家からの通いだったよね? お休みの間の連絡手段がないけど、仕方ないか」
「魔技師と研究員の方は何回か講習で学校に来ると言ってましたよ! 顔を合わせたらアトリアの写し紙を何枚か分けておきますね!」
「……ありがとう、助かる」
アトリアは久々に家に帰る安心した気持ちと、しばらくスピカと離れてしまうどこか寂しいような気持ちとが入り交ざった複雑な心境だった。それゆえに、逆にいつも通りの平静を装ってスピカと話している。
スピカが「ニワトリクス」についてまったく触れずに会話が進んでいることに、アトリアの表情は緩んでいた。
「……噂で聞いたけど、学生の授業がお休みの期間に魔法学の研究会や発表会があるみたい。シャネイラ様もいらっしゃるかもしれないし、私も学校に顔出そうかしら?」
「いいと思いますよ!」
「……まぁ、いろいろと考えておく。必ず連絡するから」
魔法学校での半期を終えて、以前より成長を遂げた2人の魔法使いはここに少しの別れの言葉を交わすのだった。
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