◇間奏16 後

 オージェは素早い動きで、牽制を混ぜながらカレンに襲い掛かる。拳の先の刃を使い、隙の少ない動きで斬撃を繰り出していた。


 対するカレンは、2本の愛刀で巧みに防ぎ、弾き、そしていなしていた。間合いでは刃の長さの分勝る彼女だが、オージェの繰り出す連撃の速さから攻撃に転じれないでいた。


『思った以上に……、やるねぇ。この任務に就いたのが私でよかったよ』


 カレンは心の内で呟きながら、目で追うよりも反射に近いレベルで相手の斬撃を防ぐ。そして、わずかな隙と思った瞬間には一歩踏み込んで、力強い剣撃を繰り出した。


 オージェはカレンの一撃に対して手の甲を交差させるようにして防ぐ。しかし、その威力ゆえに後ろへ弾き飛ばされたのだった。地面に足を滑らせ態勢を整えた彼は、一呼吸おいて口を開いた。


「片手の剣撃でこの力かい……。ヒヒ、さすがあの『賢狼』と並び称されるだけはあるようだ」


「おやおや、グロイツェルを知ってるのかい? あいつはガラの悪い連中に恨み買いまくってるからねぇ」


 ふたりは先ほどより開いた距離を不用意に詰めようとしなかった。お互いがお互いを、想定以上の強者と認めたようだ。



『連撃の一つひとつがなかなかに重たいねぇ……。守りを甘くしたら崩されそうだよ。まったく面倒な相手だことで――』



 オージェは再びカレンの懐へ飛び込もうとした。しかし、彼が最初の一歩を踏みしめようとした瞬間、先にカレンが詰め寄っていた。


『――だったら、守るのはやめだ』


 カレンの二刀は、まるで獲物に喰いつかんとする双竜の如く襲い掛かる。2本の太刀筋が面を成すようにしてオージェの拳がつくる鉄壁の要塞を崩しにかかる。

 彼女の表情に普段の親しみやすそうな雰囲気はまったくなかった。「狩り」へ全ベクトルを振り切った猛獣へと姿を変えている。


 カレンの猛攻を両手の鉄甲で防ぎ、時折反撃を挟むオージェ。彼の斬撃がカレンの腕を掠め、袖を破って薄皮がかすかに切れる程度の傷を負わせる。


 まさにかすり傷、痛みがあるかも定かではない小さな切り傷を負ったカレンは、後ろに跳んでオージェから大きく距離をとった。怪我の程度からすると、不自然に見える動きだ。



「――姑息だねぇ。痺れ毒かい」



 カレンは傷口に吸い付いて、血を唾液と一緒に地面へと吐き捨てた。どうやらオージェの武器の刃先には毒が塗ってあるようだ。


「ヒヒヒ、わずかでも血中に入れば動きは鈍る。そのかすり傷がお前の致命傷になるぜ」



『傷口からヒリヒリする感じが伝わってくる。とっととケリつけないとマズいかもねぇ』



 カレンは再び剣先を向けて、オージェに詰め寄る気配を見せる。一方のオージェは先ほどまでとは一転して最初から守りの姿勢をとっていた。おそらく、毒の効果が表れるまでの一時を稼ぐつもりのようだ。


「――ったく、じれったくて姑息で面倒で、全部私が嫌いなやり方だよ」

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