第20章 錯綜する思惑
第138話 称賛と悔しさ
前期最後の演習はスピカとウェズンのペアが勝利を収めた。森のエリアの外に集まった3回生は各々の得点を聞き、一喜一憂をしている。ウェズンの容態を気にするスピカだったが、ゼフィラが医務室へ急行してくれたのもあってか、大事には至らなかったようだ。
「ウェズンさんは元々身体が強くない子なのよ。スピカさんと一緒の演習ではりきり過ぎたのかもしれないわね? リンデ先生がしっかり診てくれているから心配しなくて大丈夫よ?」
教員のティラミスにそう諭され、とりあえずスピカは医務室へ飛び込みたい衝動を抑えるのだった。
明日、各生徒に成績表が配布され前期のカリキュラムは終了。約ひと月の期間、学生たちは休暇に入る。
最後まで戦ったサイサリーやベラトリクス、シャウラにゼフィラ、それにアトリアも揃ってスピカの元に集まっていた。
「スピカ、最後僕に仕掛けたのは……?」
「特異魔法の一種、『重力魔法』です。最近、ようやく意識的に使えるようになってきました」
スピカの返答に驚くサイサリー、シャウラ、ゼフィラの3人。ベラトリクスは先日、スピカの魔力が暴走した一件を知っているので、納得の表情を浮かべている。アトリアは、スピカの師ルーナ・ユピトールに話を聞いていたため、特に反応はないようだ。
「特異魔法にも驚いたけど……、魔法の使い方に詠唱速度、実戦の立ち回り、総合力でスピカに負けた感じだね?」
「いやー、遠征の時より格段に腕を上げてるもんな。ウェズンさんのヤバさは十分理解してたけど、スピカもここまでやるとは想定外だったぜ?」
「ほんとにそれよ? 今回は完敗だわ。――でも、後期でまた追い越してやるから。せいぜい油断しないことね?」
進学組の3人はスピカの飛躍に、悔しさを滲ませながらも賞賛の言葉を送った。
編入生のアトリアとベラトリクスも同じくスピカの能力を称えつつも、同じスタートを切った者として進学組以上の悔しさを噛みしめていた。
◇◇◇
――医務室。
「ごめんなさい、リンデ先生。お水を……、きっとたくさん飲むと思いますので、水差しごと持って来てくれませんか?」
医務室のベッドで意識を取り戻したウェズン。血の気のひいた青白い顔をしている。最初は咳き込んでもいたが、数杯の水を飲んだところでそれは落ち着いたようだ。
「ウェズンさん、時々授業もお休みしているのでしょう? あまり無理をしない方がいいわよ、せっかくの才能も体を壊したら意味ないのだから?」
リンデは水差しに並々水を入れて、ウェズンのいるベッド横の小さな机に置いた。
「ええ。今日で授業はひと段落ですから、ゆっくり体を休めようと思います。お気遣いありがとうございます」
ウェズンは返事をしながらコップに水を注いでいた。その様子をじっと見つめるリンデ。
「いかが……、されました?」
「いいえ。あんまり飲むとしんどくなるわよ? 水といえども、飲み過ぎには注意しなさい」
「ええ、気を付けます」
リンデはウェズンに背を向けて、医務室のデスクの引き出しを開けた。そこには束になった「魔法の写し紙」が入っている。
『本当に姉貴の言う通りのことが起こった。連絡しておかないと……、あまり気は進まないけど』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます