第137話 静かな決着
突如、倒れたウェズンの姿を見て一瞬攻撃を躊躇したゼフィラ。しかし、彼女のこの優しさが今回は仇となる。
ウェズンは意識を失っていた。ただ、その寸でのところで弱弱しい火球の一手を放っていたのだ。奇しくもその炎は、
「うっそだろう!? こんなのありかよ?」
ほぼ無傷のゼフィラだが、左胸のワッペンの色だけはしっかり変わっている。
「――っていうか、ウェズンさん大丈夫? まさか勝つための演技なんてことないよな?」
うつ伏せになっているウェズンに歩み寄るゼフィラ。そこに頼りない光を放つ雷が飛び込み、ウェズンに直撃した。
「抜け目ないな、ベラトリクスめ……。おーい、ウェズンさん! どうしたんだよ!」
スピカは倒れたウェズンの様子を気にかけていた。ゼフィラはそれに気付き、大きな声を上げる。
「スピカ! オレがウェズンさんを医務室へ運んでくよ! そっちは遠慮なく決着付けろ!」
ゼフィラの声を聞いて安堵するスピカ。視線はベラトリクスとサイサリーにやりながら大声で返事をする。
「ありがとうございます、ゼフィラ! どうかよろしくお願いします!」
ウェズンが退場し、ベラトリクスはスピカと睨み合っていた。そして彼の後ろにはサイサリーが控えている。
ところが次の瞬間、ベラトリクスは後ろに軽い衝撃を受けて地面に手を付いていた。彼を襲ったのは背後のサイサリー。威力を抑えた土の下級魔法「グラベル」が背中に直撃したのである。
「サイサリー、てっめぇ!!」
起き上がって睨みつけるベラトリクス。それに対してまったく悪びれる様子もなく、余裕の表情をみせるサイサリー。
「らしくないな、ベラトリクス? 成り行き上一緒にいたけど、君たちと協力するなんて一言も言ってないだろう? 実戦主義の君とは思えないミスじゃないかな?」
こう言われてベラトリクスには返す言葉がなかった。たしかに、勝手に共闘しているつもりになっていただけで、そんな約束は一度も交わしていない。
「ちっ……、終わったら飯奢れよ! それでチャラにしてやるぜ!」
悪態をついて去っていくベラトリクス。こうして、バトルロイヤルで残ったのはスピカとサイサリーの2人。
「さぁ、スピカ! ここからは本当に一騎打ちだ! 白黒つけようか!?」
ここまでの戦いの流れから両者は、魔法を見てから回避するにはむずかしい、近い距離に立っていた。ゆえに、それほど大きな声でなくても十分会話ができる。スピカは珍しく、落ち着いた大人しめの声で話し始めた。
「残りがサイサリーひとりなら……、きっとあたしの勝ちです」
「言ってくれるね、スピカ。僕では相手にならないとでも――」
「いいえ。あたしには……、奥の手があるからです!」
スピカの言葉が終わると同時にサイサリーは地面に叩きつけられていた。彼は自分の身になにが起こったかわからず、混乱している。
「なっ……、なにがどうなって!?」
背中に恐ろしいほどの重圧を感じながらなんとか起き上がろうとするサイサリー。しかし、この鈍重な動きの彼に魔法を当てるのはあまりに容易かった。
威力を抑えた風の刃が彼の服を掠めるように当たる。そして、左胸のワッペンが赤い色に変わった。
戦いの決着は付いたが、直後にスピカの心は倒れたウェズンの方へと向かっていた。ゆえに彼女が勝ち名乗りをすることもなく、とても静かに――、バトルロイヤルは終わりを迎えるのだった。
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