第136話 最終局面

「ウェズンさん、大丈夫ですか?」


 正面にいる4人の魔法使いを見据えながら、スピカは後ろのウェズンに声をかける。


「大丈夫よ。一度に魔力を消費したからちょっと疲れたけど、もう呼吸は整ったから」


 ウェズンはスピカの肩越しに正面を見て、相手の陣形を確認した。


「サイサリーくんと……、ベラトリクスくんも前に出る気配はなさそう。遠距離からの支援と防御役かしらね。残りの2人ならゼフィラさんが前に出て、決めにくるのはシャウラさん、といったところかしら?」


「ゼフィラの動きは厄介です! シャウラさんもどんな手で攻めてくるか読めません! やっぱり手強いですね!」


 スピカの話を聞き終えると、ウェズンはスピカの横に並んで立った。


「人数、消耗度合……、どちらをとっても向こうが有利。穴があるとしたら?」


「成り行き上での4人の連携。あくまでサイサリーとベラトリクスは別の組。決して1枚岩とは言えないこと…‥、ですか?」


「スピカさん冴えてるわね。つまり、咄嗟の事態には必ず綻びが生まれると思うの。あとは――」


「こっちがそのをつくったらいいんですね! でしたら」


「ええ、攻めましょうか」


 一度大きく頷くとふたりは前へと進み出た。



「あっちから仕掛けてきそうだぜ? ウェズンさんもスピカも強気だな?」


「スピカの消耗はよくわからない。防御はサイサリーを信じて、まずはウェズンさんを叩くわよ、ゼフィラ?」


「りょーかいりょーかいっと! ベラトリクスは?」


「勝手に援護してくれるでしょ? あれは放っておきましょう」


「ははっ、シャウラもベラトリクスの扱いがきついなー。アトリアみたいだぜ」


 ゼフィラは後ろのベラトリクスを一瞥したあと、一気に前へと走り出した。


『先手を打たれると好きにやられそうだからね。こっちからもいかせてもらうぜ』


 背後に付いてシャウラも駆け込んでくる。後ろのサイサリーとベラトリクスは一定の距離を保ちながら同じく前へと進んできていた。



「アイスウォール!」



 シャウラが声を上げると、地面から氷の壁が立ち上がった。同時にスピカがエアロカッターでシャウラへ攻撃を仕掛けるが、サイサリーの張った結界が彼女を守る。


 シャウラは次々に氷の壁を呼び出し、ゼフィラはその後ろに身を隠しながら着実に必中の距離まで迫ろうとしていた。



「おもしろいわね……。だけど、全部薙ぎ払うわ」



 ウェズンは火の下級魔法ファイアバルーンを詠唱、即座に発射の姿勢に移る。だが、それは単発ではなく、なんと5発同時!



「うひゃ! ウェズンさん、マジでめちゃくちゃしやがるぜ!」



 氷の壁を盾に、身を潜めるゼフィラ。サイサリーはシャウラへの射線を結界で完全に塞ぐ。シャウラはサイサリーが守ってくれると信じて前を目指す。5発同時に魔法を撃てばさすがのウェズンでも隙ができるはずだ、と。


 しかし、そのシャウラの動きを読んでいたかのようにスピカのエアロカッターがウェズンの魔法とは時間差で襲い掛かった。


 シャウラはここで負けを覚悟した。だが、スピカの風刃は、2人の間に割り込んだ稲光によってかき消される。援護したのはベラトリクス。


『ナイス、ベラトリクス! ここならウェズンさんを……、いや、魔法を使ったばかりのスピカも狙える。ここはどっちを――』


 一瞬、判断に迷ったシャウラだが、ゼフィラと決めたのはまずウェズン。確実に捉えれる距離に踏み込んで氷槍を撃ち込む!



「やっぱり最後の一手はシャウラさんね! 属性の相性、そろそろ学んだら?」



 ウェズンはファイアバルーンの5連撃から、すでに次の一手の準備を終えていた。シャウラのアイシクルランスに合わせるようにまたもファイアバルーン。火の球は氷の刃を溶かしながらシャウラに直撃する。


 ――しかし。


「冗談っ! ウェズンさんならもう一手くらい来ると思ってたわよ!」


 シャウラは被弾しながらも表情は余裕で、ウェズンでもスピカでもないところを見つめていた。



「今回はオレが、おいしいとこもらいますよっと!」



 シャウラの被弾覚悟の接近、これを囮にしてやってきたのは魔法を温存していたゼフィラ。

 彼女の姿を横目で捉えたスピカだったが、正面から雷光を放ったベラトリクスが迫っていた。さらに別方向にはサイサリーの姿も見える。



「もう一手、ギリギリ防げるかしら」



 ウェズンは準備万端でやってきたゼフィラに追い付くほどの速さで呪文を詠唱。結界ではなく、魔法同士の相殺、もしくは貫通を狙って攻撃を放とうとする。



「――うっ!!」



 しかし、彼女はゼフィラの魔法に被弾する前に突如、その場に膝をついて倒れてしまった。

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