第134話 状況把握能力

 ベラトリクスのフェイントで、必要以上に強力な結界を展開したウェズン。背後から迫るシャウラとゼフィラ。後ろを気にし過ぎると、正面のベラトリクスも改めて仕掛けてくるだろう。


「うーん……、属性は雷、水と炎か。みんなバラバラなのね」


 ウェズンが虚空に半円を描くよう大きくスティックを振ると、スピカも多様するエアロカッターが同時に4発放たれた。


「――今の結界の後で同時に4発!? マジで化け物かよ!」


 ベラトリクスは自身に向かってくる風刃の1発を結界で対処。もう1発は牽制なのか、彼の立ち位置とは大きく外れて飛んでいった。


 もう2発はシャウラとゼフィラの元へ。しかし、彼女たちに防御の気配はない。後ろに控えるサイサリーが射線を封じるように結界を張って、両方とも防ぐのだった。


「ゼフィラ! 道を塞いで!」


「任せろって!」


 シャウラの声とほぼ同時にゼフィラはフレイムカーテンを詠唱。時間差でウェズンの背後に炎の壁が現れた。


「もう下がれないでしょう? この距離なら外さないし、結界だって貫いてやるわ!」


 シャウラは、アイシクルランスを放った。言葉通り「氷の槍」を意味する魔法だが、彼女が放ったのは「氷の針」に近い鋭角上のもの。ウェズンの瞬時に使う結界すら突き破るつもりだ。


「連携はとてもいいけど……、シャウラさんは学ばないわね? 属性の相性……」


 ウェズンはゼフィラの生み出した炎の壁に自ら飛び込んだ。ウェズンを襲った氷針は同じく炎に飲み込まれ消失する。


「あれって!? 魔法に当たったことにならないの?」


「いんやー、おそらく自分の周囲に微弱の結界を張って飛び込んでるよ。フレイムカーテンは見た目ほど炎の威力が強くないからなー」


 ウェズンは、攻撃手段としてファイアバルーンを多用し、魔力測定の際もヴォルケーノを使用している。さまざまな属性を使い分ける彼女だが、実は得意分野は「火」なのかと、ゼフィラは考えていた。

 だからこそ、火の妨害魔法「フレイムカーテン」の特徴も知り尽くしているのではないか、と。



◇◇◇



『……勝てる!』


 アトリアが魔法用のスティックではなく、木剣を持ち込んだのはカレンに習っている「退魔剣」を使うため。

 瞬時の判断で繰り出すにはまだまだ技量不足だが、「ここで使う」と予め決めていれば下級魔法をかき消す程度には扱えるようになっていたのだ。


 スピカは、エアロカッターの防御に必ずアトリアが魔力を消費すると考えていた。ゆえに次の一手は、お互いに呪文の詠唱から始まると――。


 しかし、剣で魔法を消し去る、というスピカにはまったく想定外の技を使い、アトリアは即座に魔法を使える状態で至近距離に来た。さすがの彼女もこれには負けを覚悟せざるえなかった……、が。


 次の瞬間、アトリアは背中に衝撃を受け、スピカに抱き着くような恰好で倒れ込んだ。


 彼女を襲ったのはエアロカッター、風の下級魔法。しかし、スピカが放ったものではなかった。

 ウェズンがベラトリクスに向けて使った2発の内の1発。明らかに方向を違えたように見えたが、そもそもの狙いがベラトリクスではなかったのだ。



「だっ、大丈夫ですか、アトリア!?」



 背中から強く押されたように吹っ飛んだアトリアを、スピカはなんとか受け止め問い掛ける。



「……また、負けちゃったな」



 アトリアは、スピカの顔から視線を外して小さな声でぽつりとそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る