第133話 1対1と1対4

 ウルズールを討ち取ったウェズンは自身の周囲に素早くフレイムカーテンを展開。シャウラたち3人との視界を一旦遮断して、1つ呼吸をおく。


『――スピカさんは、アトリアさんと一騎打ちの構えかしら? それなら』


 ウェズンは炎の壁に背を向けて、走り出す。その先にいるのはベラトリクスだった。


「独りぼっちは――、逃さないから!」


 ウェズンの動きに気付いたベラトリクスは正面から迎え撃つ姿勢を見せる。


「上等だ! タイマン売られて逃げる気はねぇよ!」


 ベラトリクスの動きを注視しながらも、ウェズンは背中の炎が想定よりずっと早く消えたことに気付いた。


『鎮火された? シャウラさんの魔法かしら……? 時間に余裕はなさそうね』


 ウェズンの読み通り、フレイムカーテンはシャウラの水の魔法によって消されていた。



「ウェズンさんの狙いはベラトリクスか、うまく背後から狙えないか?」


「あの人、背中に目ん玉付いてるみたいに結界張るからなー? けど、今がチャンスはチャンスだよな!」


「私とゼフィラで攻める! サイサリーは反撃に備えて!」


 シャウラとゼフィラの2人は揃って、ウェズンの背を追って駆け出した。その姿を見つめながらサイサリーは呟く。


「まったく……、好き勝手に命令してくれてさ? 従いますけども――」



◇◇◇



 正面から距離を詰めてくるウェズン相手にベラトリクスは、呪文の詠唱を始める。


『結界の発動でも呪文の詠唱でも、真正面からやったって敵わなねぇ……。けどな』


 ウェズンはあと数歩で、下級魔法の十分な射程に入ろうとしていた。当然ベラトリクスの攻撃を警戒している。しかし、ここで彼女は妙な感覚に襲われた。


『ベラトリクスくんの魔力……、大き過ぎる。これは下級のレベルじゃない』



「くらいやがれ! ライトニングレイ!」



 ベラトリクスは口にしたのは雷属性の上級魔法「ライトニングレイ」。


 しかし、彼の手から放たれたのは同属性の下級魔法「サンダーボルト」だった。


 ベラトリクスがため込んだ魔力と叫んだ言葉からウェズンは、咄嗟に強力な防御結界を張ろうとした。ところが、実際に彼女を襲ったのは大して威力のない魔法。



「どうだ! 上級魔法を『使わなかった』ら反則じゃねぇだろ!?」



 彼のフェイントは、ウェズンに無駄な魔力を消費させるのが目的。そして、彼女の後ろから迫るシャウラとゼフィラへの対処を遅らせるのが狙いだった。

 これはウェズンが使ゆえに、強力な魔法の予兆に体が勝手に反応するだろうと読んでのことだ。


「狡猾なのね? ベラトリクスくん、見直したわ?」



◇◇◇



 アトリアは魔力を十分に充填して、スピカとの間合いを詰める。一方のスピカは下手に攻撃せずにじっくりとアトリアの動きを見ていた。俊敏な彼女の動きを理解しているからこそ迂闊に手を出さないでいるのだ。


 十分な距離、アトリアの反応でも躱しきれないであろう距離まで引き付けてから最速の詠唱でエアロカッターを放つ。

 スピカはこれを、距離の見極めと詠唱の速さでとちらが上かの戦いと判断した。そして、ギリギリの距離間と呪文の詠唱、ともに自分の勝ちだと思った。


『……スピカは魔法使い、この距離まで来たら私の対処は、魔法での相殺か結界での防御の2択と考えるはず』


 アトリアは充填した魔力を残したまま突っ込んでくる。眼前にスピカのエアロカッターが迫っていた。


『……けど! 私は魔法剣士! この一点に集中すれば、やれる!』



「――退魔剣っ!」



 アトリアは構えた木剣を、居合いを思わせる動作で振り抜いた。その刹那、スピカの魔法は、火を吹き消したかのようにフッと姿を消すのだった。


「あたしの魔法がっ!?」


『……魔力は残した! スピカの防御は間に合わない! 勝てる!』

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