第132話 覚醒
ウルズールの放った閃光。それが視界から消えたとき、サイサリーの目に入ったのはウェズンのファイアバルーンに撃たれた彼の姿だった。
そして、かすかだがウェズンの周囲を黒い霧のようなものが覆っている。
『ブラインドの魔法……、ウルズールが目くらましを使うのわかって仕掛けてきたのか?』
サイサリーは素早くシャウラとゼフィラの元へ合流。立ち上がったウルズールは彼に向かって何度も頭を下げていた。
「――戦い方は間違ってない。相手が悪かっただけだよ」
ウルズールまでは決して届かない声で小さく呟くサイサリー。
「演習が終わったらきちんと伝えてやりな? けっこう自信になるんじゃないの?」
シャウラはぶっきらぼうな言い方で、サイサリーの独り言に答えた。
「いやー、まさかまさかだけどさ。アトリアとベラトリクス……、スピカひとりに抑え込まれてるぜ?」
ゼフィラは目でウェズンの動きを追いながらも、時々スピカへの注意も払っている。そして、彼女の能力に驚きを隠せないでいた。
遠征で一緒だったからこそスピカの力を過不足なしに理解しているつもりでいたのだ。ところが、この演習で見せる彼女の動きはゼフィラの想定を大きく上回っている。
「スピカ・コン・トレイル……、あの子本気でヤバいレベルになってるわよ。ウェズンさんとあんなのがペアなんてホントに厳しいわ」
「――とはいえ、こっちはまだ3人。ベラトリクスたちがスピカの相手をしてくれるなら、3対1だ。さすがに負けられないよ」
◇◇◇
「おいおいおいおい! スピカってここまで動ける奴だったか!?」
「……私の台詞! 詠唱も防御も私なんかよりずっと早い。以前とまるで別人みたい」
スピカの重力魔法を警戒してアトリアが踏み込めていないのはある。それを加味しても、スピカの動きはこれまでと一線を画していた。
牽制の魔法、魔法結界の展開の速さ、いずれも2人が知っているスピカのそれとはまるで違うレベルに達している。
さすがにスピカ1人に対して2人掛かりなら――、と思っていたベラトリクスはこの状況にわずかな苛立ちを見せている。アトリアも、ベラトリクスが焦っているからこそ逆に冷静になれていたが、彼の気持ちは十分に理解できた。
「……ベラトリクス、私がスピカをなんとかする! あなたはウェズンさんを牽制して!」
「はぁ!? 2人で苦戦してんのになに言ってんだ!?」
「……私にやらせて! 安心しなさい、あなたと違って知恵が詰まってるの。無策じゃないから」
自身の頭の中を侮辱されているにも関わらず、アトリアの勢いに気圧されてベラトリクスはなにも言い返せなかった。
「わーったよ! 邪魔が入らないようにしてやるから……、負けんなよ!」
「……もちろん。スピカには、負けない!」
アトリアは木剣を構えつつ、呪文の詠唱を始める。そして、まるで剣士が間合いを詰めるように地面を蹴って弾かれたようにスピカへと向かっていった。
「……いくわよ、スピカ!」
「勝負です! アトリア!」
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