第131話 阿吽の呼吸

 各々が相手の出方を窺っていた。下手に動けば、2組――、もしくはそれ以上を敵に回してしまう状況。


 ただ、ウェズンとスピカの2人を倒すのが最優先。アトリアは、シャウラのペアとサイサリーのペアがこの共通認識でいると考えた。

 同じく、同盟を結んだ4人も、アトリアとベラトリクスはまずウェズンとスピカのペアを倒しにかかると予想した。


 ゆえに――、機が重なったのは偶然か必然か、3組が同時にウェズン・スピカのペアに襲い掛かる!



「――スピカさん、アトリアさんの方、お願いね?」


 ウェズンは、シャウラの氷槍とサイサリーの石礫を2枚の結界を展開して防ぐ。絶妙に射線をずらした2人の魔法はお互いに潰し合わず、さらに時間差で着弾するように放たれていた。


 それでも両方の魔法を止めてみせた彼女は、同時にカウンターで風の刃を放つ。これは次の一手に控えているゼフィラとウルズールへの牽制だった。



 一方、ベラトリクスの放った雷光はスピカの結界によって止められる。距離を詰めつつ、追撃を狙うアトリアには魔法こそ撃たなかったものの視線で捉え、動きを掌握してみせた。


 アトリアはスピカの使う重力魔法について知っている。彼女がどこまで使いこなせるかはわかっていないが、その魔法の存在そのものがアトリアの動きを躊躇させた。



「サイサリーさん、僕が被弾覚悟で接近します! 妨害がひとつでも決まれば数で押し切れると思います」


 勇んで前へ出ようとするウルズールをサイサリーが抑える。


「焦るな、ウェズンさんが簡単に妨害魔法なんてくらわないよ? 手札として隠してる分には有効なんだけど……、こっちの使う魔法はある程度バレてるだろうからね」




「アトリアよ、スピカ相手だとずいぶん慎重じゃねぇか? 変な情が入ってないだろうな?」


「……冗談言わないで? 不気味なのよ、スピカの能力を……、把握しきれていないから」


 近付く動きをみせたアトリアだったが、スピカの視線を感じて結局は下級魔法の射程ギリギリのところまで下がっていた。




「足を止めると……、そっちがやられるわよ?」


 ウェズンが空気を横一文字に断ち切るようにスティックを振るうと、炎の球が3つ浮かび上がり、時間差でシャウラたち4人のいるところへ襲い掛かった。


 距離と速さは決して躱せないものではなかった。しかし、火球の向かった先は魔法使いたちの回避方向を絶妙に迷わせる位置だった。


「うっひゃ! 狙いはオレたちの分断か!? 孤立したら狙われるぜ!」


 ゼフィラは軽快な動きで飛び跳ねながら、周りの仲間たちの位置関係を確認する。幸い、相方のシャウラは同じ方向へと逃げていたが、サイサリーとウルズールはそれぞれ散り散りになっていた。


「悪いけど、1人ずつ狩らせてもらうから」


 ウェズンは孤立したウルズールを仕留めに距離を詰めにかかった。それを好機と狙う態勢に入ったアトリアとベラトリクス。しかし、彼らの真正面は突如、地面が土煙を噴き上げ、視界を塞いでしまった。


「スピカの奴め! 地面に魔法を叩き込みやがったな!」

「……本当に、戦い方が器用。ウェズンさんとの息も合ってる」



 ウェズンは視界の端でスピカの動きを捉えながら口元を緩めた。スピカは――、ウェズンが思っている以上に自分が求める動きを言葉なしにやってくれているのだ。


「さて、ウルズールくん。まずはあなたから!」


 ウェズンがあえて接近したのは、魔法が躱されないようにするため。しかし、迂闊にも彼女が踏み込んだエリアはウルズールの妨害魔法の射程でもあった。


「ぼっ、僕がやられたって、誰かが――」


 ウルズールが前に向けたスティックの先から強烈な光が放たれる。雷の妨害魔法「ブライト」の閃光だった。

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