第130話 誰が主役?

「あらあらぁ……、なんだかお揃いでお出でなさったみたい」


 ウェズンとスピカはほぼ同時に、自分たちの元へ近付く気配に気付いた。ほどなくして、林道の向こう側から4人の人影が姿を現す。

 それは、シャウラとゼフィラのペア、さらにサイサリーとウルズールのペアだった。


「うふふ、またまた『共闘』かしら? だけど、さっきの3組よりずっと手強そうだこと」


 4人が真っ直ぐにウェズンとスピカに視線を向けてやってくるのを見て、彼らが一時的な同盟を結んでいるのは明らかだった。おそらくはウェズンとスピカを倒すまでの約束なのだろう。



◇◇◇



 ウェズンとスピカの居場所に至る前、サイサリーとウルズールのペアは、シャウラとゼフィラのペアと遭遇していた。しかし、開口一番、サイサリーは彼女たちに休戦を申し出る。


「ウェズンさん……、それに今となってはスピカの力も侮れない。僕らが後に争うとしてもだ……、一旦は手を結ばないか?」


 サイサリーの申し出をシャウラは驚くほどすんなりと受け入れた。実は彼女も同じことを考えていたからだ。


「――協力するのはあくまでウェズンさんとスピカの2人を倒すまで。その後はどうなろうが恨みっこなしよ?」


 シャウラはそれだけ言って、視線だけでゼフィラに同意を求めた。


「サイサリー? 協力するフリしていきなり襲ってくるとかは無しだからな?」


「安心しなよ? この1戦の勝利のために、残りの学校生活での信頼を無くすような真似をこの僕がすると思うかい?」


 良くも悪くも計算高いサイサリーの言葉は妙な説得力を持っていた。彼の相方、ウルズールもこの意向に賛成で、ここに4人の「対ウェズン・スピカペア連合」が成立したのである。



「――そういえばさ、退場していく連中の会話から聞こえてきたけど、もう1組残ってるの……、アトリアとベラトリクスっぽいぜ?」


 ゼフィラは持ち前の顔の広さで、退場となった同級生とすれ違うたびに情報収集をしていた。そして、残るは4組。ここにいる自分たち含めた2組とウェズン・スピカのペア。そして、もう1組がアトリア・ベラトリクスのペアと掴んでいた。


「個人の能力は別として……、あのいがみ合いペアが残ってるなんてちょっと意外だったけど、ゼフィラの話は間違いなさそうよ?」


 シャウラは苦笑いをしながらサイサリーに話しかけた。それを聞いた彼も同じような表情に変わっている。


「なんだかわからないけど――、あの2人なりに策を練ったんじゃないかな?」



◇◇◇



 アトリアとベラトリクスの2人は、特に背中合わせになるでもなく、各々で周囲を警戒しながら川沿いの道を進んでいた。


「55点! オレらがトップだぜ! 案外楽勝なんじゃないかよぉ!?」


「……何度か危ない瞬間もあった。それに、残ってる組はおそらくスピカの組やシャウラの組よ? 簡単にはいかない」



 各々の技量は高水準でありながら、ペアの相性から勝ち残りはむずかしいと予想されていたこの2人。しかし、蓋を開けてみれば残り時間半分を切り、4組しかいない状況で、その1組として生き残っている。しかも得点は現在トップだ。


 これにはアトリアの考えた「作戦」――、と呼んでいいかすら怪しい戦術があった。

 アトリアもベラトリクスも、質こそ違えどもより実戦的になればなるほど力を発揮するタイプだ。しかし、今回の演習は「ペア」で挑むため、ここに頭を抱えている。


 ――ならば、いっそのことペアなど忘れてしまってはどうだろうか?


 アトリアがベラトリクスに提案したのは、失格にならない距離の維持のみ。それ以外は単身のつもりで好き勝手に戦う。これが「作戦」なのかは別として、2人に限ってはこの方法が、お互いに足を引っ張らずにもてる力を出せる最良の選択だったのだ。


『……組とかペアなんて言葉に縛られるからいけないんだわ。要は、魔法使い同士の戦い、なんだから』


 アトリアはここまで積み重ねてきた得点を思い返しながら、心の中で呟いていた。実際に下手な連携をとろうとして失敗しているペアをいくつも見てきたのだ。



「おっと! アトリアよ、これはエラいところに出くわしちまったようだぜ?」


「……わかってる。ここで決着付けろってことね」



 アトリアとベラトリクスの視線の先には、向かい合うウェズンとスピカのペアとシャウラ・ゼフィラのペア、そしてサイサリーとウルズールの姿があった。2人が彼らを視界に入れた時点で、当然向こうもこちら側に気付いたようだ。



「なんと! 皆さん、揃ってしまいましたね!」



 スピカの大きな声が森の中でこだまする。バトルロイヤルの残り4組、8人の学生がこの場に集結した。すなわち、ここで残ったペアがこの戦いの勝者となるのだ。

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