第128話 勝ち残り
バトルロイヤル形式の演習が始まってからおおよそ30分の時間が経過。終了まで残す時間はあと半分。森林エリアからは重い足取りで、幾人もの生徒が出てきていた。左胸のワッペンは皆揃って赤色に染まっている。
「ウルズール1人くらいすぐやれると思ったんだけどなー」
「シャウラさんとゼフィラさんの連携には恐れ入ったわ。あの2人が相手なんてさすがにきついわよ?」
「なーにがみんなで協力したらウェズンさんを倒せるだよ? 揃いも揃って返り討ちじゃないかよ?」
やられた生徒は己のやられた状況や対戦相手への愚痴を口にしながら、スコア表に点数を記録していく。中には数組のペアを倒して点数を稼いでいた者もいたようだが、どこかで敗戦したことによりその点は半減していた。
学生たちの記録に目をやりながら、時折入ってくる監視係りの4回生からの情報をエクレールは書き留めていた。
「やはり――、と言いますか、ウェズンとスピカのペア、それにシャウラとゼフィラのペア、それからサイサリーとウルズールのペアが残っていますね?」
「やっぱりセンスのある子たちはなにをやらせても結果を残すわね? アトリアさんとベラトリクスくんのペアも……、残ってるみたいじゃない?」
スコア表に目を落として、残りのペアとその得点を確認するエクレールとティラミス。彼らは現時点での記録を見て少しだけ驚いていた。
魔法の技術、実戦感覚ともに非常に優れているのだが、「連携」の意味合いで一歩遅れをとると予想していたアトリアとベラトリクスのペアが現状のトップにいたからだ。
「無策で結果を残せるほどセントラルの学生は甘くない。あの2人も――、なにかしらの策をもってこの演習に挑んでいるのだろう」
アフォガードも横目でスコアを見ながら、独り言のようにそう呟いた。
◇◇◇
「……今の時点で残りは何組ですか?」
アトリアは監視係の4回生に今の状況を確認していた。戦略的な意味合いから、残りのペア数とトップの得点は教えてもらえるようになっている。
教員と4回生たちは、こまめに連携をとって最新の情報を共有できるように務めているのだ。ただ、あくまで目視で確認しているもののため、場合によっては多少のズレも当然起こりえる。
今の時点で、演習開始から30分以上が経過していた。最初は多くの組が様子見を決め込むのだが、どこかで戦闘の口火が切られると、あれよあれよと火種は広がっていく。
気が付くと残りはわずか4組となっており、得点状況でいくとアトリアとベラトリクスのペアがトップに立っていた。
「オレらがトップか! このままイケるんじゃねぇか!」
「……私たち以外で3組、順当にいけばウェズンさんのペアとシャウラのペアが残ってそうね? あとは、サイサリーかしら?」
「さぁてね、サイサリーの相方はパッとしない感じだったけど、どうだろうな?」
アトリアは真っすぐにベラトリクスの顔を見つめていた。
「……一応確認するけど、逃げる気――、ないわよね?」
ルール上の「勝ち」を目指すのなら終了時間まで隠れて交戦を避けるのは常套手段のひとつ。しかし、アトリアには……、そしてベラトリクスにもその選択肢はないようだ。
「当ったり前だろうが! 特にサイサリーが残ってるならぶっ倒す! ――っていうか、残ってる奴は誰が相手でもぶっ倒す!」
「……そう、そこだけは意見が合いそうで助かる」
アトリアは大声で話すベラトリクスを横目で見ながら、川へ向かう道を振り返らずに進んでいく。少しして、その後をベラトリクスが慌てた様子で追いかけて行った。
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