第127話 それぞれの攻防
「ほらほら、どうしたどうした!? 当たんないぜ!?」
ゼフィラは向かってくる火球と氷槍を軽快な動きで躱していた。彼女は一定の距離を保てば、避けることには絶対の自信をもっている。
2人がかりで攻めれば容易に倒せると思っていた相手のペアは、一向に彼女を捉えられず、注意力をすべてゼフィラにもっていかれていた。
そして、近くに潜んでいるシャウラに気付いたときにはすでに遅く、彼女の放った氷塊が1人に直撃、注意がシャウラに移ったところを今度はゼフィラの炎が襲い掛かった。
「やりー! これで2組4人目だな、シャウラ!?」
「そうね、下手に徒党を組まれて来られると面倒だもの。こっちからガンガン数を削ってやるわよ」
シャウラとゼフィラのペアは典型的な攻めの姿勢。相手を求めて森を歩き回り、出会った相手を片っ端から倒していく構えだ。
ゼフィラの機敏な動きとシャウラの防御魔法が加われば、そう簡単にはやられない。元々、学内でも付き合いの深い2人は互いの動きを察するのにも長けている。ともに魔法の成績でも非常に優秀で、実戦的な動きも十分にこなせる。
偶然でき上がったペアではあるが、非常に強力な組み合わせなのは間違いなかった。
「さーて、ここいらにいた奴らはどっかに消えてしまったようだけど……、どうする、シャウラ?」
「そうね、ちょっと消耗したし様子見に切り替えましょうか。放っておいても勝手に潰し合って数は減っていくだろうからね?」
「オッケー! ま、どうせウェズンさんとスピカのペアは残るだろうしな? アトリアとベラトリクスはわかんないけど……」
「あの2人は勝手に沈むんじゃない? それより、こうした戦略性のある戦いだとサイサリーの方が怖いわ。頭がいいし、他人の能力の活かし方を知ってるからね?」
「だよな! オレもあいつは警戒してるよ。相方はウルズールだっけ? あんまり冴えない奴だったと思うけどさ」
ゼフィラはそう言いながらシャウラの近くに駆け寄って、自分の体で隠すようにしておもむろに彼女の手を握った。
「――ちょっと、こんなところでくっつかないでくれる?」
「なんだよ、照れるなってー?」
「弁えなさいって。私たちの関係、他の生徒には内緒なんだから」
シャウラはゼフィラの手を優しく包み軽く爪を立てて、小さな声でそう呟いた。
◇◇◇
「やったー! これで20点目ですよ! サイサリーさんのおかげです!」
サイサリーの放った土の下級魔法「グラベル」が逃げる生徒の背中に直撃した。これで2組、計4人の相手から得点を奪っており、彼の相方となったウルズールは喜びの声を上げている。
「――だから言っただろう? 君はとても優秀な魔法使いだよ。ただ、周りがそれを理解できていないだけさ」
ウルズール・レムナン、雷の魔法を得意とする学生だ。身長が同級生の男子生徒と比べてずいぶんと低く、そこにコンプレックスを抱えているようだ。また、学内の成績も決して優秀とは言えず、今回サイサリーとペアになった際も最初は、申し訳なさそうにしていた。
成績では、上から数えて5人以内に入るサイサリーとで釣り合いがとれないと思っていたようだ。しかし、そんな彼にサイサリーは開口一番こう言った。
「ウルズールくんと一緒でよかったよ。敵に回したくないと思っていたからね? 君の能力は今回の演習で必ず活きてくる」
サイサリーはウルズールの能力と、周囲から見た彼の評価を加味した上で作戦を立てていた。
それはとてもシンプルに、ウルズールを目立たせること。
魔法使いとして、決して「手強い」と思われていない彼が視界に入れば、相手は必ず得点を狙って襲ってくるだろう、と。
相手からすればカモを見つけたつもりなのだろうが、その実、襲い掛かる方が彼らにとってのカモなのだ。
ウルズールは雷の妨害魔法「ブライト」や、得意ではないが相手の動きを鈍らせる「ディレイ」の魔法を扱えた。
彼への攻撃はサイサリーが徹底的に魔法結界で守り抜く。最初は、遠距離で仕掛けてくるだろうが、数発撃って仕留められなければ相手は必ず距離を詰めようとする。
近付いて来たら、標準魔法と比べて射程が短いとされる妨害系統の魔法射程に入れることができる。それによってわずかでも動きを封じられれば、サイサリーは的をはずさなかった。
「もっとも――、この作戦は、君を見て迂闊に襲い掛かってくる程度の奴らにしか通用しない。そのレベルの連中は時間が経てば淘汰されるからね。本当の戦いはそこからだよ?」
サイサリーは、ウルズールを緊張させないよう余裕のある表情でそう言った。だが、心の内では強敵と遭遇した際の対処法を練っている。
『ウェズンさんとスピカのペアはまず残るだろう。あとは――、シャウラとゼフィラのペアも確実かな? それ以外はどうだろうか……、アトリアのベラトリクスはよめないな』
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