第125話 いざ、バトルロイヤル
セントラル魔法科学研究院、第1演習場の森林エリア。天然の森には及ばないが、鬱蒼と樹木が生い茂り、膝まで浸かる程度の浅い川も横断している。3回生の上半期を締め括る最後の演習授業、バトルロイヤルが行われる場所だった。
最初にルール説明をアフォガードが行った。――とはいえ、編入生以外は過去に同ルールでの演習を経験しているため、そこから目新しい変化はないようだ。それは、先日スピカがウェズンから聞いた内容と同じだった。
「こほん……、人を直接狙うため、魔法は下級に限定する。ただし、妨害系に関してのみその限りではない。また各自、防魔服の着用を必須とする」
屋外でのアフォガートの声は普段にもまして聞き取り辛い様子だった。生徒たちは一言も話さず、彼の言葉を一言一句聞き逃さぬよう耳を傾けている。
「4回生の有志たちが得点の記録も兼ねて、森の中で待機してくれているが、各自でしっかり点数は把握しておくように」
開始の合図がなされると、最初の5分間だけは魔法を使えないルールとなっている。この時間で各々が戦いやすい位置取りをするのも要所の1つといえた。
「アトリアさん! 木剣を持ち込むんですか!?」
教員からの説明が終わり、開始までの隙間時間。スピカはアトリアの武器を見て大きな声を上げている。
「……えぇ。当たり前だけど、これで直接叩いたりは禁止されてる。けれど、みんなが持ってるスティックの代わりなら使っていいらしいわ。一応、先生にも確認してみたから」
セントラルでは入学と同時に、魔力の伝導率が高いスティックを各自に割り当ててくれる。ゆえにほとんどの学生はその武器を使って魔法の訓練を行っている。
ただ、中には大きめの杖が使いやすいといった生徒や、アトリアのように剣を魔法の道具として扱う生徒もわずかだか存在している。
「アトリアー、最初にやりあったときのようにはいかないからな? シャウラとオレのコンビでぶっ倒してやるから覚悟しとけよ?」
いつものように柔軟体操をして、軽いステップを踏みながらゼフィラが話しかける。その隣りには腕組みをして頷くシャウラの姿があった。
「ベラトリクスと揉めて自滅だけはしないようにね? せっかくだから本気で戦いたいものね?」
シャウラの視線を正面から受けるアトリア。彼女にしては珍しく、ほんの少しだけ表情を緩ませて返事をする。
「……大丈夫。自滅はしないわ。――多分だけど、ね」
アトリアの雰囲気に、シャウラ、ゼフィラ、スピカの3人はそれぞれ顔を見合わせながら疑問の表情を浮かべていた。
「まぁ、なんだ! このベラトリクス様の力を見せつけてやるから覚悟しておきやがれ!」
女性陣の間に割って入ってきたのは、今話題に上がったばかりのベラトリクス。アトリアは彼に軽く視線を送ったが、なにか特別打ち解けたような雰囲気でもなかった。
「あらあらぁ……、皆さん揃ってるわね? せっかくの機会ですもの。悔いの残らないよう全力を出し切ってがんばりましょうね?」
いつもの明るい笑顔で姿を見せたのはウェズン・アプリコット。彼女の表情とは対照的に、そこに集まっている学生たちの顔に緊張が走った。
「ほらほら、そろそろ開始の合図がされるよ? 争う前の5分間が案外大事なんだからね?」
彼女たちを横目に森へ向かって歩いて行ったのはサイサリー、そして、その後を追いかけるように彼のペアとなった男子生徒、ウルズールも駆けていった。
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