第124話 予想

 セントラルの中にある講義室、3回生を担当している教員たちが集まっていた。彼らとは別に10人ほどの学生の姿も見受けられる。


「アフォガード先生、4回生の有志は集まりました。演習場の森林エリアも問題なさそうです」


 ここでは、バトルロイヤル形式の演習授業の準備が行われているようだ。


「しかし、スピカさんがルーナ・ユピトールからの推薦だったとは驚きましたわ。アフォガード先生は最初から知っておられたのですか?」


 ティラミスは先日のスピカが気絶してしまった騒動で、はじめてスピカ・コン・トレイルについての詳しい事情を知った。彼やエクレールがセントラル所属の教員になった時はすでにルーナ・ユピトールは卒業していた。それでも、彼女の学生時代はさまざまな記録として残されている。


「うむ。もっとも……、編入資格さえ要していれば師が誰であるかは問題ではなかろう。別に隠していたつもりはない。ただ、必要ない情報と思っただけのことだ」


「たしかにねぇ……。あの『ユピトール卿』のお弟子さんとわかっていたら注目を集めますしね? だけど、『重力魔法』については明確に伝えていなかったようですね?」


 アフォガードはティラミスの問い掛けに、ほんの少しの間目を瞑り、言葉を選びながら語り始めた。


「ルーナは、スピカ・コン・トレイルを『自立した魔法使い』に育てるのが目標のようだ。我々や学生たちとの関りによって気付きを与えたかったらしい。ルーナに依存させないための、彼女なりの工夫なのだろう?」


 この答えにティラミスは、納得したようなそうでないような――、曖昧な返事をするのだった。




「いやー、今年の3回生はとても優秀のようですね? バトルロイヤルはどのペアが勝ちますかね?」



 演習の監視役で集められた4回生たちは、3回生のペア一覧が書かれた表を見ながら、勝ち予想をしているようだった。



「ウェズン・アプリコットのペアがやっぱり強いんじゃないの? ――っていうか、ウェズンがヤバ過ぎるんよね?」

「いやいや、最近小耳に挟んだんだけどさ、一緒のスピカって子もけっこうやるらしいぜ?」

「このシャウラとゼフィラって子、2人ともけっこう名前聞く子たちでしょ? 一緒にいるのもよく見かけるし、仲良しで成績もいい子たちなら強いんじゃない?」

「アトリアとベラトリクス……、この2人はどっちもかなり優秀な編入生じゃなかったっけ?」

「なんか3回生の子らが話してるの聞いたけど、その2人めちゃくちゃ仲悪いらしいぞ? それでペアだときつくないか?」



 ペアの名前を確認しながら、好き勝手に予想を立てる4回生たち。そこにエクレールが顔を出した。


「君たち、魔法闘技の賭け予想ではないんだ。しゃべってないで、各々の持ち場を早く決めたまえ?」


 教員に窘められ、演習場の地図に目を向ける4回生たち。しかし、お調子者の学生が軽いノリでエクレールに問い掛ける。


「ちなみになんスけど……、エクレール先生だったらどの組が勝つと思いますか?」


 学生の言葉に大きく息を吐き出すエクレール。ただ、彼はまだ若い教師ゆえに学生たちの楽しみを理解できない訳ではなかった。ペアの表に視線を向けて、少しの間考え込む。

 そして、軽い笑みを浮かべて問い掛けた生徒に小さな声で答えるのだった。


「内緒にしときなさい。――サイサリー・アシオンとウルズール・レムナンのぺアだな、私の予想は」

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