第121話 信頼

 医務室に戻ったリンデは念のため、スピカにいくつかの検査をしてから、さらにもう1日安静にするよう伝えた。目を覚ますと同時にすっかり元気を取り戻したスピカはどこかもどかしそうだったが、ルーナからリンデに従うよう言われると大人しく応じるのだった。


 アトリアとルーナの2人は一旦医務室を出た。アトリアは今日の授業予定を思い浮かべ、そう言えばベラトリクスとポラリスにスピカが目覚ましたことを伝えないと――、と思い至るのだった。


「あの子はアトリアさんをずいぶん気に入っているようです。なにかと騒がしい子だと思いますが、これからも仲良くしてやってください?」


「……もちろんです。『友達』ですから」



 アトリアはルーナと並んで歩きながら、頭に浮かぶいくつかの疑問について尋ねてみるかを迷っていた。そんな彼女の考えを見透かすようにルーナは話しかける。


「なにか聞きたそうな顔をしているね? 私についてか、スピカについてか……、或いは両方かしらね?」


 ルーナから逆に問われたアトリアは、意を決して疑問をぶつけてみることにした。


「……スピカは初日の自己紹介で、『ヴィルゴ村から来た』と言っていました。ですが、その村は――」


「私がまものを仕留めきれなかったがゆえに、滅ぼされた村さ」


 ルーナが自虐的な笑みを浮かべながらそう話した。ここまできたら後には退けないとアトリアは続ける。


「……ヴィルゴ村の事件では、村の生存者はいなかったとされています」


「あの子は村が大好きなんだろうね? 今は私と暮らしているけど、スピカの生まれは間違いなくヴィルゴ村さ。まさか自己紹介でそんなこと言っていたとは……。驚いた、驚いた」


 ルーナの話を聞きながらアトリアは自分なりに頭を整理していた。


『……ヴィルゴ村はスピカの生まれた村。つまり、村がまものの襲撃を受けた際にスピカは生き残っていた。そして、今はユピトール卿と暮らしている。つまり……、スピカのご両親は――』



「スピカはアトリアさんをとても信頼している。私は保護者として、あなたにならあの子について話してあげてもいいと思っている。知りたいのでしょう? スピカのこと?」


「……気にはなります」


 ルーナは空を見上げて少しの間、黙り込んだ。彼女なりに考えをまとめているようだ。そして、視線をアトリアに戻すと優しい笑顔を浮かべた。


「今は、私よりあなたがあの子の近くにいるからね。話しておきましょう。アトリアさんにならスピカもきっと納得するでしょうからね」


 そう言ってルーナは、自身とスピカの関係について話始めたのだった。


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