第119話 弱点
ルーナ・ユピトール。彼女は、風と水の2属性を自在に操る魔法使い。複数の属性を等しく扱うのは一流の魔法使いでも非常にむずかしく、それを難なくやってのけるルーナの能力は、当時のセントラルでも非凡だった。
しかし、ルーナにはそれより遥かに目を見張る能力があった。
それは彼女が操る「重力魔法」。特異魔法の一種で、その存在自体は以前から確認されていた。だが、ルーナの操るそれのレベルは、過去のいずれのものとも比較にならなかった。
自身に向けられた魔法の軌道すら捻じ曲げてしまうその力は、魔法使い同士の戦いでは無類の強さを誇った。彼女に向けられた魔法は、そこに辿り着く前に高度を失ってしまうのだ。
それはある種の「絶対領域」であり、当時の学生でルーナとまともに戦える者は1人もいなかったという。
重力魔法に頼らなくても、風・水の魔法だけでも当時の最高峰に位置しており、まさに彼女は「最強の魔法使い」だった。
しかし、魔法を自在に操る能力ゆえにルーナは、自分が抱えるある弱点をずっと隠していた。
彼女は、人に向けて魔法を撃つことができなかった。
魔法学校の授業では、巧みな魔法の操作によって的を射抜いたり、相手の武器を狙うことでそれを誤魔化していたのだ。
ルーナはセントラル卒業と同時に、王国直属の魔導士団に所属することになる。直接人を狙えない彼女ではあったが、間接的な魔法での支援は十分できると自負していたのだ。
実際、彼女の能力はセントラル卒業後もいかんなく発揮されていた。幸いにもルーナが得意とする魔法は、支援や妨害といった間接的な方法への応用がしやすく、誰も彼女が人を狙えない魔法使いとは気付かなかったのだ。
しかし、ルーナが王国魔導士団に所属して1年を過ぎた頃に事件は起こった。
魔鉱石採掘の護衛でとある遺跡にきていたルーナ。彼女は王国への帰りにまものの大群による襲撃を受ける。
大量に魔鉱石を積み込んだ荷馬車にまものは群がってきた。元々、その遺跡と周辺でまものの目撃はほとんどなく、護衛はとても手薄だったという。まともな戦力になるのはルーナくらいのものだった。
もっとも、ルーナ本来の力なら魔法使い数人分の戦力に相当する。まものとの遭遇も十分に対処できるはずだった。――本来の力を発揮できれば。
ルーナはまもの相手に魔法を使うことができなかった。彼女の思考なのか、本能なのか、身体なのか……、もしくはそのすべてなのか、相対する「まもの」を人間に近いものと捉えたのだ。
まものを蹴散らすつもりでいたルーナだったが、結局はさまざまな妨害魔法を駆使して、荷馬車を逃がすことに専念したのだ。そしてこれ自体は成功し、彼女も無事に王国へ帰還した。
だが、その数時間後、王国に悲劇の一報が飛び込む。
まものの群れが、「村」と呼ぶには小さすぎるほどのある集落を襲撃したとの知らせだった。位置関係からおそらく、ルーナが仕留め損ねたまものがその矛先を変えて村を襲ったのだと思われた。
ルーナがこの知らせを聞いた時、すでに村は壊滅しており、生存者は1人も見つからなかったという。元々、大きな地図には載らないようなとても小さな村――、「ヴィルゴ村」の悲劇だった。
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