第117話 相手として
エクレール先生がスピカの様子を確認しに来た後、私とポラリスはしばらく医務室に残っていた。どれくらいの時間が経っただろうか、窓から見える景色が薄暗くなってきた。
「ご…ごめんなさい。私、そろそろ家に帰らないといけない時間で――」
ポラリスは申し訳なさそうにそう言って医務室をあとにした。彼女は自宅からの通いだからあまり遅くまで学校にいるわけにはいかないのだろう。
「アトリアさん、あなたもそろそろ部屋に戻ったらどう? もう夜になってきたけど?」
リンデ先生がスピカの寝顔を窺いながらそう言った。相変わらず、目を覚ます気配はないみたいだ。
「……そう、ですね。また明日様子を見に来ます」
「また明日か……、よほどのこの子が心配なのね?」
「……ええ。心配と言いますか、一応ルームメイトですから」
「たまには部屋で1人になるのもいいものよ? 焦らなくても直に目を覚ますだろうから安心なさい」
「……わかりました。スピカをよろしくお願いします」
私は先生に深く頭を下げて寮へと戻っていった。すっかり暗くなった外の道を歩き、校舎の中庭を抜けて女子寮の方へ向かっていく。その途中にあるベンチで見覚えのある人影が目に入った。
「……ベラトリクス? ここでなにを?」
「おー、アトリア。どうだ、スピカは目ぇ覚ましたか?」
彼の問い掛けに私は無言で首を横に振った。それを見たベラトリクスは一言「そうか」、とだけ言った。
「……まさかと思うけど、ずっとここで待っていたの?」
「あーっと、一度部屋には戻ったけどな。やっぱりスピカのこと気になるだろ? けど、ずっと医務室にいるのも居心地悪いからよ?」
私は小さく息を吐き出した。この男らしい頭の悪そうな発想だ。けれど、そういうところは嫌いじゃない。
「……また明日様子を見にいく。先生は時が経てば目を覚ますと言っていたから、きっと大丈夫でしょう」
「そうか、次の演習は1週間後だろ? ウェズンとペアなのは脅威だけど、スピカとは競ったことないからよ。けっこう楽しみにしてんだ」
たしかに――。私もスピカと競ったことは一度もない。出会って最初の頃は、競い合うレベルにない子だと思っていた。けれど、この短期間で彼女は目覚ましい成長を遂げている。
魔力測定のテンペストなんて遠目に見ても、かなりの威力を誇っているのが伝わってきた。
あくまで複数の中の1組ではあるけれど……、スピカと対戦するのはおもしろいかもしれない。問題は隣りにいる男とどう連携をとるかなんだけど……。
「……ねぇ、ベラトリクス? その演習についてなんだけど――、ひとつ私から提案があるの?」
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