第18章 師弟の秘密
第116話 医務室にて
「これは――、そうね……。精神エネルギーをごっそり精霊にもっていかれてる」
セントラルの医務室、白衣の上から黒のボレロカーディガンを羽織った先生はベッドに眠るスピカの額に手を当てながらそう話した。
「熱もない。脈拍も正常。眠っているのとほぼ同じ状態だから、直に意識を取り戻すと思うのだけど――」
先生の話を聞いて、私とベラトリクスは互いの顔を見合い、揃って肩を撫で下ろした。ポラリスは、スピカが倒れた事態を3回生担当の先生方に伝えに行ってくれている。
この学校に来てから医務室を訪れたのは初めてだ。私たちを迎えてくれたのは、腰まで届きそうな長い金髪を伸ばした若い女性の先生。
皺ひとつなく整えられた服を着ている。きっと几帳面な人なのだろう。長い髪は首のあたりで結んであった。
胸にある名札には「リンデ・ティンバーレイク」と書いてある。
「回復魔法は、肉体的な傷の治療以外に効果を発揮しない。残念だけど、ここで寝ててもらう他に手立てはなさそう」
私は、リンデ先生にスピカがどうしてこんな状態になってしまったのかを尋ねてみた。
「ここの学生は魔力操作に長けてる子が多いから、こういう症状は滅多に起こらないのだけど……。身の丈を超えた魔法を使おうとして、精霊に精神エネルギーを吸い尽くされるのは稀にある。――とはいっても、意識を飛ばしてしまうほどのは私も初めてかな?」
たしかに言われてみれば、私も幼い頃に魔法の練習をしていて、立ち眩みを起こした経験がある。今のスピカは、その症状が何倍も激しい状態なのだろう。
「この子が心配なのはわかるけど、いつ目を覚ますかはわからない。ずっとここにいても時間の無駄よ?」
ベラトリクスは眠っているスピカとリンデ先生の顔を何度か見比べている。先生の言い方は少し冷たいけれど、ここにいても無意味なのはきっと間違いないだろう。
「安心して? 目を覚ましたらちゃんと知らせてあげる。3回生のアトリアさんとベラトリクスくんだったわね?」
この言葉にベラトリクスはかすかに表情を緩め、寮の部屋の番号を先生へと伝えていた。
「……少しだけ、もう少しだけ私はここにいるから」
「そ……。あなたがいいなら好きになさい。さて、女の子ことは女の子に任せなさいな、ベラトリクスくん?」
「そう言われると居ずれぇな……。アトリア、スピカが目ぇ覚ましたらちゃんと教えろよ?」
彼の言葉に私は無言で頷いた。礼儀もデリカシーもない男だけど、スピカを心配する気持ちだけは伝わってくる。私もそんな彼の想いを無下にするつもりはなかった。
ベラトリクスが医務室を出てからしばらくして、エクレール先生とポラリスがスピカの元へやって来た。
リンデ先生はエクレール先生にスピカの容態を簡単に説明している。
「スピカ・コン・トレイルの保護者には念のため、アフォガート先生が連絡をとってくれています。大事に至ることはないと思いますが」
「……スピカの周りにいた生徒たちはどうなったんですか?」
「4人とも揃って特に外傷はありません。あの非常階段のあたりでなにがあったのか、今ティラミスが事情を聴いているところです。彼に尋ねられたら、きっと包み隠さず事実を話してくれることでしょう」
ティラミス先生からの聞き取りか……、あんまり想像したくないな。
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