◇間奏14
「『知恵の結晶』のラグナ様が……、スガさんに?」
「はい。ラナ様ではなく、そちらのスガワラさんに――、です」
酒場「幸福の花」を訪れたアレンビーは、先日ギルドマスターのラグナ・ナイトレイとの会話について話していた。彼女曰く、ラグナ特有の「フラグが立つ」といった言い回しに反応した人について話題にしたそうだ。
すると、ラグナはその人物について詳しく尋ねてきたそうだ。――とはいえ、当のアレンビーがスガワラについてはそれほど知らない。ゆえに、彼女はスガワラの名前と少し変わった彼の仕事について簡単に説明をした。
「ギルドマスター……、『ラグナ・ナイトレイ』と言いますが、スガワラさんの名前を聞くや否や、いきなり本部にお連れできないか? と言い出しまして――」
アレンビーの持ち込んだ話にラナンキュラスは驚いていた。魔法ギルドの長を務めるラグナとスガワラの接点がまったく見当が付かなかったからだ。
一方のスガワラは特に驚いた様子もなく、アレンビーの話を聞いていた。むしろ、彼自身がどうにかしてラグナ・ナイトレイと会えないか考えていたようだ。
ラナンキュラスはセントラル在学中に進路の関係でラグナと顔を合わせたことがある。彼女の記憶にある彼は、特徴がないのが特徴、のような「普通」を絵に描いた男性だった。
その表情は常に親しみを込めた笑顔を称えていた。しかし、ラナンキュラスからすれば、逆にそれが彼の本心を隠しているようにも映ったのがとても印象的だったようだ。
「知恵の結晶のマスターからお声が掛かるとは……、まったくけっこうなご身分じゃのう?」
鼻息を荒くしながらこう漏らしたのは、自称「パララの婚約者」こと、彼女の幼馴染のマルトーだった。
「えー…っと、マルトー様? 最近よくご来店いただいているようですが、それほど当店がお気に召されたのでしょうか?」
スガワラはわざとらしい
「ふん! 毎度ここのデザートとコーヒーを注文しておるからわかるじゃろう? 我は単なる客じゃ!」
彼の返事を聞きながら首を捻るスガワラ。その傍らにラナンキュラスが立ち、小さな声でスガワラに話しかける。
「ふふっ……、きっとパララが心を許しているスガさんのことが気になっているのですよ? ポチョムキンさんは」
貴族の御曹司「マルトー・ポチョムキン」、彼はこの店を初めて訪れ、パララと遭遇したあの日から何日も続けてこの酒場に顔を出しているのだ。
そして、ラナンキュラスの察しが当たっているのか、彼は店で簡単な軽食を注文した後はずっとその目でスガワラを追っている。
マルトーの顔を見てひとつ小さくため息をついた後、スガワラはアレンビーの方に向き直った。彼女は急に話に割って入ったマルトーを奇妙に思いながらも、スガワラへの話を続ける。
「――スガワラさんが良ければ、改めて迎えの者をこちらに寄こしますが……、マスター・ラグナにお会いになりますか?」
スガワラはほんの1、2秒ほど間を空けた後に、大きく頷いた。
「ええ……、お会いできる日を楽しみにしている、とお伝えください」
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