第111話 締めの演習

「――テンペストッ!!」



 スピカの大きな声をのみ込むように巨大な竜巻が姿を現した。測定中の生徒以外は十分に距離をとったところから見学をしているのだけど、それでも強烈な空気の乱れを感じた。



「――アトリア? 今のテンペスト、けっこうヤバい威力あった気がするんだけど……?」


 隣りにいたゼフィラが話しかけてくる。横目で彼女の顔を見たあと、視線をスピカの方へと向けて私は答えた。


「……えぇ。詠唱に少し手間取っていた感じはあったけど、この距離でも威力の高さを感じられた。いつの間にあそこまで力を――」


「ははっ、これはオレたちうかうかしてたら追い越されるぜ? 気を引き締めないとな?」


「……私は負けない。相手がスピカだって誰だって」


 口ではこう返したけれど、内心スピカの魔力には驚いていた。この距離では狙いや詠唱速度までは正確にわからない。けれど、単純な威力だけの話なら今のテンペストは、おそらく私のコキュートスを上回っている。スピカはいつの間にこれほどの魔力を手に入れたのだろう?



 魔力の測定は、いくつかの場所にわかれて順番に行われていった。学生の中でもっとも注目を集めたのはやはりウェズン寮長だった。使った魔法は火の上級魔法「ヴォルケーノ」。ただ、彼女の場合、間髪入れずに2発のヴォルケーノを放って早々に測定を終えたのだった。


 通常、下級の魔法ですら連続詠唱はむずかしい。上級魔法で詠唱の間をほとんどおかずに放つなんて尋常ではない。


 私はなにかまた力の差を見せつけられたようで悔しさが込み上げてきた。だけど、当のウェズン寮長はきっと私のことなど眼中にないのだろう。測定を終えて戻ってきたときも、まるでこちらを気にする気配はなかった。それが――、余計に悔しさに拍車をかける。



「こほん……、魔力の測定はこれにて終了だ。結果は各々に個別で通達する。次回の演習が、前期授業の締め括りとなる」


 魔力測定の授業を終えて、私たちは大きめの講義室に集められた。そこでアフォガード先生の説明を聞いている。先生の話途中に、周りで囁き声がいくつか聞こえた。次第にそれがざわめきとなって広がっていく。

 理由はとても簡単だった。締め括りになる演習の内容をまだ誰も知らないからだ。



「――静粛に。次回の演習については今から説明する」



 先生の一言で場は再び静寂が訪れた。アフォガード先生は声が小さいから皆が騒いでいると、声が聞き取れない。



「こほん……、最後の演習は、2人1組のペアをつくり、第一演習場の森を使ってバトルロイヤル形式の乱戦を実施する」


 「バトルロイヤル」の言葉でまた講義室は騒がしくなった。勝ち残り形式の乱戦か……。私は内容より、一緒に組む相手のことへ思考が向かった。


 2人1組――、魔力は当然だけど、実戦的な動きに長けて意思疎通と連携をしっかりとれる人と組みたいところ。だけど、そもそも相方を自由に選べるのかしら?

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