第107話 潜在能力
魔法結界や治癒・回復の魔法、これらも元を辿ればかつては「特異魔法」の一種とされていたようです。
ですが、その発動の仕組みを解析し、理論としておとし込むことによって、多くの人が使えるものに変わっていきました。
魔法結界は、今となっては魔法使いの初歩的な術式として扱われるほどになっています。治癒・回復の魔法はかなり特殊な適性があるようでして、大方の理論がかたまっているにも関わらず、きちんと扱える人はまだまだ限られています。
アトリアやシャウラさんが得意とする「氷」の魔法も実は元々特異魔法の分類だったそうです。これらは魔法学の発展と共に、水属性の魔法の応用技術だと判明しました。
実戦における汎用性では「水」より「氷」が優れているようでして、いつしか魔法使いで水の属性に適性のある人は氷の魔法を使うようになっていったみたいです。
アルヘナさんは特異魔法について簡単に説明をしてくれました。さすが研究員志望とあって、お話はとてもわかりやすく、内容がすぐに頭へと入ってきます。
「――ですが、あたしは風の魔法を得意としていますよ?」
「過去に記録されている特異魔法の中には、術者が無自覚で使っているものもあるんです。他者が観測して、初めて術者も『魔法』として認知するケースもあります」
つまり、あたしは自分ではわからずになにかの魔法を使っている、ということでしょうか?
うむむ……、よくわかりません。
「僕の調べたところ、君の魔法は過去によく似た系統が確認されている。ただ、誰でも使えるほどの解析までには至っていないようですけど――」
あたしは、自分が無意識に使っている魔法に関して本当にわかりませんでした。ですが、それと似た魔法を使っていた人には興味があります。その人についてアルヘナさんに尋ねてみました。
「――ルーナ・ユピトール。ずいぶん前の卒業生ですが、セントラルでは『ユピトール卿』と呼ばれた伝説の魔法使いのようです」
「ルーナ・ユピトール!? それはセンセのお名前です!」
あたしは魔法の師である「センセ」についてアルヘナさんにお話をしました。
「――君はルーナ・ユピトールのお弟子さんだったのか……。ユピトール卿が同じ系統の魔法を教え込んだのか、はたまた君の特殊な才能に気付いたのか――、そのどちらかなんでしょうね?」
あたしは特異魔法の話より、センセがそんな偉大な魔法使いだと知って驚きました。尊敬するすごい人ではあるのですが、センセは自分のお話をあまりしてくれません。
「センセと次に会う時は、特異魔法について聞いてみないといけませんね!」
センセは、ずっと前にあたしの隠れた才能を伸ばしてあげる、と言っていました。きっと、特異魔法の才能に気付いてくれてそこを伸ばす訓練をしてくれていたのです。
「スピカ・コン・トレイル……、これはあくまで僕の推測だけど、君が特異魔法を意識的に扱えるようになればとてつもない力になると思います」
「そう……、なんですか?」
アルヘナさんは話す内容をまとめているのか、また少しの間黙ってしまいました。前髪を垂らし下を向いています。そして、ゆっくりと顔を上げて言いました。
「おそらくですが、君は無意識化で特異魔法を使う準備を常にしています。これは言い換えるなら、常時サスティナの状態です」
「常時サスティナ状態……?」
魔法の詠唱を途中段階で維持する魔法使いの高等技術「サスティナ」。中断状態を維持するだけでも魔力を消費するので、非常にむずかしくリスクも大きい技です。ですが、使いこなせば魔法の連続詠唱や同時発動が可能と言われています。
「仮にそうだとしたら、潜在能力は計り知れない。さらに君の特異魔法は、それ単独でも十分強力な武器となります。もし、それらの力を意識的に扱えるようになれば――」
アルヘナさんはここで少し間をおいてから、続きを話し始めました。
「きっと、ウェズン・アプリコットすらも超えられると思います」
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