第106話 気付き

 今日は学校がお休みの日です! ですが、予定はなにもありません。アトリアはなにか予定があるようで、いつもより上機嫌でお外へと出かけて行きました。

 あたしはなにをするか考えましたが、天気がとてもよかったので、とりあえず外へ出てみることにしました!


 雲ひとつない青空の下、陽の光に照らされてとても気持ちがいいです! ひょっとしたら第2演習場には誰かいるかもしれません。ひとりで魔法の修行をしてもいいと思ったので、演習場へと足を運んでみます。


 授業がお休みのため、学校内はいつもより静かです。いつもと同じ場所にも関わらず、なにか見知らぬ場所を歩いているような錯覚を覚えます。



「スピカ・コン・トレイル?」


 あたしが校舎の脇の道を抜けたときでした。後ろから誰かに声をかけられました。振り返るとそこに立っていたのは、同じ編入生で魔法研究員志望のアルヘナさんでした。


「おはようございます! アルヘナさん!」


 噂ではアルヘナさんの周りにはいつもお連れの方が何人かいるようでしたが、今はおひとりのようです。彼は目を覆い隠す前髪を左手でかき分け、あたしの目を見ました。


「ちょうどよかった。君と話をしたかったんだ。今、少し時間はありますか?」


 そういえば、先日アルヘナさんのお友達(?)の方があたしを尋ねて来ました。アトリアとシャウラさんの勢いに負けて、あの時は結局会いにいきませんでしたので、申し訳ないことをしてしまった気がします。


「この前はごめんなさい! アルヘナさんがあたしを呼んでると聞いたのですが――」

「気にしなくていい。僕は一言も『君を連れてきてほしい』、なんて言っていない。僕の機嫌をとろうとして誰かが勝手にしたことだろうから」


「そっ…、そうなんですか……?」


「スピカ・コン・トレイル、君も聞いているでしょう? 『ネロス家』のことを?」


 とても有名な魔法ギルド「やどりき」で代々、幹部を務めている一族が「ネロス家」だと先日教えてもらいました。アルヘナさんはその家系の方のようです。


「えっと、失礼でしたらごめんなさい。あたし、あんまり礼儀作法とかには疎くて――、その、高貴な方との接し方もあまりわかっていないんです」


 彼は3秒ほど黙ったあとに、ふっと大きく息を吐き出しました。


「かまわない。いや――、むしろ、君くらいの接し方が僕にはうれしいくらいです。たしかに家柄は『特別』かもしれませんが、僕自身を特別扱いする人間にはうんざりしているんです」


 アルヘナさんは、まくしたてるように早口でそう言いました。編入式で最初にお会いしたときはもの静かな印象でしたので、なんだか意外に思いました。


「アルヘナさんとはまだあまりお話をできていなかったので、あたしは嬉しいです! ――ところで、お話というのは?」


 また数秒黙り込んだ後、彼は前髪の隙間からあたしを覗くようにして言いました。


「僕は、特異魔法の理論構築を研究のテーマにしている。そして、君の魔法を研究させてほしい」


「あたしの?」


「スピカ・コン・トレイル……、君はおそらく今の在学生で唯一の――、『特異魔法』の使い手だ」

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