第105話 カレンの思惑
「……退魔剣」
アトリアは初めて見聞きする技に驚きを隠せないでいた。
「剣に『気』を通わせる必要があるからねぇ……。うちのギルドでも案外使いこなせてるやつは少ない技だよ」
カレンの側近であり、ブレイヴ・ピラー2番隊の副長を務めるサージェですら咄嗟に使うのは難しい高度な技。だが、それゆえにこれを身に付けることでの優位性も多いにある。
「魔法使いは呪文を放った際、その射線は安全と考える。相手が勝手に避けてくれるからねぇ? ところが、この技を使いこなせば正面突破も可能ってわけだ」
カレンの話では、当然ながら威力によって防げる防げないの程度はあるようだ。彼女ほどの技量なら一般的な中級魔法くらいは瞬時に掻き消すことができる。
「せっかく魔法を使えるチャトラがいるんだ。サージェは対魔法の修行をしっかり積みな?」
「はい、ありがとうございます」
「チャトラにもやり方を教えるよ。簡単に使える技ではないかもしれないけど、身に付けたらおもしろいからねぇ?」
アトリアはカレンの話を聞きながら、今の技について考えていた。魔法使い同士の戦いなら対魔法は結界を張るか、避けるかの2択を迫られる。そこに新たな選択肢が加わるわけだ。
カレンの言う通り、呪文を防ぎながら間合いを詰められるのは大きい。さらに魔力を消費せずに呪文を防げるなら、攻撃か防御かの読み合いでもかなり有効な技術だと思えた。
「……ぜっ、是非、私にも指導をよろしくお願い致します!」
カレンとサージェ、アトリアの稽古は黄昏時まで続いた。空が茜色になり、川の水面が同じ色も染まり始めた頃、3人の修行は終わりを迎えた。
「さーてとぉ……、私は夜からのお勤めがあるからねぇ。ここいらで今日はお開きとしようか?」
「はい! ご指導ありがとうございました」
サージェは直立の姿勢から腰を深く折ってカレンに頭を下げた。アトリアは彼に倣い、慌てて頭を下げる。
「退魔剣――、サージェは私の代わりに隊の連中に教えられるくらい極めてくれよ? チャトラもまた声かけるからさ、付き合ってくれるかい?」
「……もっ、もちろんです! 是非ともよろしくお願いします!」
カレンたち3人は日が沈み切る前に城下町へ戻り、アトリアを学校の前まで見送った。その道中、アトリアはふとした疑問を口にする。
「……あの、カレン様。質問をひとつよろしいでしょうか?」
「うん? なんだいチャトラ?」
「……カレン様の剣の師は、あのシャネイラ様と聞いています。ですが、今のカレン様の2刀を使う剣術はシャネイラ様とは異なると思いまして――」
「ははっ! それはそうだろうね? シャネイラに勝つための剣術だからさ?」
「……は?」
「ああ、悪い悪い。チャトラはどうも冗談を真に受けてしまうみたいだねぇ? ――とはいえ、シャネイラの真似ばかりしてちゃ超えられないと思ったのはホントかな?」
「……真似だけでは、超えられない」
カレンは軽く口走ったつもりの言葉だったが、アトリアには強く響くものがあったようだ。
「……わざわざ送っていただかなくても――」
「聞いてるよ? ちょっと前にスピカちゃんたち魔導書狩りに襲われたんだろう? なんだか最近いつにも増して物騒な気がするんだよ」
アトリアは校門前で何度もカレンに頭を下げていた。一方で、一緒にいたサージェとはほとんど言葉を交わすことがなかった。
セントラルの校門前から来た道を戻り、路面電車の駅へと向かうカレンとサージェ。
「カレン様は今日も例の酒場ですか?」
「ああ、例の酒場って言ってもつまらない方の酒場だけどねぇ?」
「酒場への張り込み程度なら代役はいくらでもいそうですが――」
「私がやりたいからやってんのさ。それに……、セントラルに知り合いができたのもなにか不思議な縁を感じるしねぇ?」
「カレン様が、あんな学生を利用しているとは正直、意外でした」
サージェの言葉にカレンは不満そうな目を向けた。
「『利用』なんて人聞きの悪い言い方しないでもらいたいねぇ? チャトラと会ったのは単なる偶然。けど、使えるモノはなんだって使うのが私のやり方。間違っても危険な目に合わせたりしないよ?」
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