第104話 対魔法
サージェが魔法の射線を避けた先にアトリアは剣を振り下ろす。普通の剣士なら十分に一本とれていた動きだろう。ただ、相手は若くしてカレンの側近にまで上り詰めた男。
態勢は多少、崩されながらもこの一撃を受け止める。アトリアは続けざまに剣を振るうがサージェはこれも防ぎながらわずかに距離をとった。
「30秒、経ったな」
「!?」
アトリアの踏み込みよりもさらに素早い動きで、一瞬で間合いへと飛び込んで剣を振るうサージェ。先ほどとは一変して、今度はアトリアが護りに徹する状況となった。
『……速い、それに――、連撃の一手一手が、重い!』
サージェの剣は、アトリアがこれまで経験したどの一撃よりも重く手に響いてくる。防御の構えをとっても崩されそうな勢いだった。
彼が頭上に剣を構え、振り下ろす構えを見せる。アトリアは強い衝撃に備えた守りをとった。しかし、サージェの木剣はアトリアには届かず、わずか手前の虚空に振り下ろされた。
『……空振り!?』
その刹那、サージェの木剣はアトリアの足を薙ぎ払い、アトリアは姿勢を崩してその場で尻もちをつく。河原の石はデコボコしていて、お尻から骨に鈍い痛みが走った。
「――そこまでっ!」
カレンは軽やかな動きで岩から飛び降りて2人の元へ歩み寄る。サージェは視線をカレンに向けながらも、アトリアに手を差し出していた。彼の手をとって立ち上がるアトリア。
彼女は今のわずかな立ち合いの中で、ブレイヴ・ピラーに所属する剣士の力を噛みしめていた。
カレンはアトリアの顔を見ながら笑顔で話しかける。
「チャトラは落ち込まなくていいよ、サージェはうちの隊でも指折りの実力者だ。むしろここで負けたらこいつは降格もんだからねぇ?」
「……はい」
「サージェは……、あれだ? 剣捌きは相変わらず大したもんだけど、魔法に対して『避ける』以外のやり方を教えたろ?」
「申し訳ございません。無意識に体が反応してしまいました」
彼ら2人の会話を聞いて、アトリアは率直に疑問を投げ掛けた。
「……あの――、魔法を避ける以外に、どんな方法があるのでしょうか?」
彼女の言葉にカレンは口角を上げてにやりと笑ってみせた。そして腰に下げた剣の一方を抜く。
「ちょうどいいや、チャトラにも教えてあげるよ? サージェはおさらいだ、私の動きをしっかり見てな?」
カレンは話しながらてくてくと歩いて、アトリアとサージェから5m程度の距離をとった。
「チャトラ! そっから私に向けて魔法を撃ってくれるかい? 軽いやつでいいからさ?」
「……はっ、はい。承知致しました」
アトリアはよくわからないままに魔法の詠唱を行い、氷の下級魔法「アイシクルランス」をカレンへ向けて発射した。
カレン目掛けて真っ直ぐに飛ぶ氷の槍。カレンは避ける気配を見せず、迫りくる氷塊自体がまるで敵であるかのように剣を構えて見せる。
そして――、氷槍を薙ぎ払うように神速の動きで剣を振るう!
アトリアの目に映ったのはほとんどカレンの残身のみだった。さらには、彼女の放った氷塊は切り払われたわけでもなく、まるで蒸発したかのように姿を消してしまっている。
「……なっ、私の魔法が……、消えた?」
「――『退魔剣』、剣士が使う対魔法用の剣技だ」
彼女の隣りに立っているサージェがカレンを見つめながら、そう呟いた。
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