第103話 2人の訓練
町はずれの河原に3人の人影があった。1人はカレン・リオンハート、他2人を見下ろすように大きな岩の上に胡坐をかいて座っている。あと2人は、彼女の側近サージェとアトリアだ。
サージェは紺に近い深めの青い髪をした細身の若い男。いかにも女性受けしそうな中性的な甘い顔立ちをしている。しかし、その顔に反して、カレン以外の人間に心を開くことはほとんどなく、無表情でいることが多かった。
「カレン様、剣の指導ならわざわざこんなところに来なくても、本部の訓練場を借りればいいのでは?」
練習用の木剣を手にしたサージェが疑問を投げ掛ける。
「本部に部外者を入れるといろいろうるさく言うのがいるだろう? グロイツェルとかグロイツェルとか……、ねぇ?」
「グロイツェル様は近頃あまり本部の中におられないようですから、大丈夫かと思いますが――」
「まぁあれさ? 一応、けじめはしっかり付けとかないと他の団員にも示しがつかないだろう?」
アトリアは彼らのやりとりを聞きながら、話の区切りを待っていた。そして、2人が同時に黙ったところで口を開いた。
「……わざわざ私なんかのためにお時間を割いていただき、ありがとうございます」
「気にしなくていいよ、チャトラ。サージェの対魔法戦の訓練にもなるだろうからね?」
「お言葉ですが、カレンさま。自分は魔法使い見習い程度に遅れはとりません」
サージェの言葉にアトリアは一瞬むっとした表情をした。カレンから彼について「腕の立つ部下」との紹介を受けていたが、たとえ事実であっても「見習い」の言葉に過敏に反応してしまう。
「サージェ、そういう台詞は立派に剣で魔法を払えるようになってから言いな?」
カレンの言葉にやや不服そうな表情を見せるサージェ。一方のアトリアはカレンの言った「魔法を払う」の言葉に疑問を感じていた。
「とりあえず――、チャトラはサージェをぶちのめすつもりで全力で戦ってみな? 剣も魔法もなんでもありだ。サージェの方はそうだねぇ……、30秒は守りに徹する。そっから好きにしな?」
「……わかりました。胸を借りるつもりで、いかせてもらいます」
「ご命令とあれば、お任せを」
2人は向かい合ったままお互いに距離をとり、木剣の先を相手に向けて構えた。カレンはその様子を左手で顎のあたりをさすりながら見守っている。
――なにか合図があったわけではない。2人の視線が交わり、互いに「機」を見た瞬間、アトリアが一気に前へと踏み込んだ。
最初の30秒、相手は守りに徹している。ならば、攻めの彼女に迷いはない。素早い動きで間合いへ入ると真正面から剣を振り下ろす。
彼女の一撃は事も無げにサージェに払われた。だが、アトリアの剣撃はこれだけでは終わらない。まるで虚空に一筆書きの文字を描くように彼女は流れる動きで攻撃を続けた。
サージェはこれを表情ひとつ変えずに右に左と弾いていくが、さすがの彼も反撃をまったくせず、ただただ耐え続けるのはむずかしいようだ。
軽いステップで後ろに跳び、距離をとったサージェ。だが、アトリアはそれを見越したように氷の刃を飛ばす。
避ける方向を読まれていたサージェは、軽く舌打ちをした。着地した足を思い切り踏み込んで左に方向を変え、氷槍から逃れるのだった。
「――ほう?」
カレンが関心したように小さな声を上げる。
サージェが向きを変えた先へアトリアは先に回り込んでいたのだ。彼女の動きを見てサージェは考えを改めた。魔法の技量はまだわからないが、剣士としてはかなりのレベルにあると――。
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