◇間奏12

 パララを訪ねて来た謎の男を店内に招き入れたスガワラ。カウンターの隅の席へと案内し、水を出すついでにラナンキュラスへも「彼のついて」伝える。


 パララ本人から、自分を訪ねて来た者がいなかったか、と聞かれたことを思い出した彼女は、店の奥からそっと男性客の姿を確認した。


 育ちの良さそうな恰幅の良い若い男。両腕を組み、背を逸らして座る姿勢にはどこか偉そうな雰囲気こそあったが、いわゆる「悪人」めいた気配は感じられなかった。



「パララを訪ねてここに来たのなら、ずい分と人を尋ねてまわったと思うのですが――。一体、どなたなんでしょうね?」


「わかりません。ですが、パララさんは以前にギルド所属の件で騙されたことがあります。それとなく、彼について探りを入れてみようと思います」



 男性客に水を差し出し、改めてカウンターに戻るスガワラ。職業柄の笑顔をつくり、彼に話しかける。


「改めまして、私はここの従業員『スガワラ・ユタカ』と申します。失礼ですが、お客様のお名前も伺ってよろしいでしょうか?」


「貴公の名前などどうでもよいわ。我はパララ・サルーンについての話を聞きにきたのじゃ」


「なにかお話をするには、お互いに信用が大事です。貴方様が信用に足るだけのことをお話いただけるのなら私にも話す準備があります」


「貴公は、本当にパララ・サルーンについて知っておるのか?」


「間違いなく知っております。それだけは先にお伝えしておきましょう」



 男性客は、スガワラの言葉を聞いて彼の姿を頭の天辺から胸の辺りまでゆっくりと順番に――、値踏みでもするかのように眺めていた。


「貴公は……、パララ・サルーンとどのような関係なのじゃ?」


「ですから、まずはお名前くらい名乗られるのが礼儀ではありませんか?」


 テーブルを拭くふりをしながら2人の様子を窺うラナンキュラス。男性客の相手はスガワラに任せて、他の来店があれば自分が対応しようと決めていた。


 すると、彼女の心を見透かしたようにお店の扉が開く。



「いらっしゃいま――、……あらあら?」



 開け放たれた入り口を見つめてラナンキュラスはぽかんと口を開けていた。なぜなら、次に現れたお客が今、話題の中心にいる「パララ・サルーン」だったからだ。


「こっ…こんにちは、ラナ!」


 耳に飛び込んだパララの声に振り向くスガワラ。そして、同じく入口の方へと視線を向ける謎の男性客。

 彼は、その視界にパララの姿を確認すると急に大声を上げた。



「パッ……、パララ・サルーン嬢ッ!!」


「!? マっ…、マルトーくん!?」



「「マルトー…くん?」」



 共に大声で互いの名を呼び合ったパララと男性客「マルトー」。その反応に対して頭上に疑問符を浮かべ、お互いの顔を見つめるスガワラとラナンキュラス。

 小鳥のように軽く首を傾げた後、ラナンキュラスは開け放たれたままの入り口をゆっくりと閉じるのだった。

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