第99話 仮面
カレンはアトリアに自分への連絡専用の「魔法の写し紙」を数枚手渡した。
「隊の連中に稽古つける日があるからさ? そん時に連絡入れるよ?」
アトリアは受け取ったアイテムを大事そうに両手に持って何度も頷いている。
「カレン、今回は大目にみますが、不用意に隊の活動に部外者を引き入れないよう注意しなさい。ここにいるのが私ではなくグロイツェルだったら黙っていませんよ?」
「わかってるわかってる! ――ということで、今回はギルドマスターの許可を得た『特例』だ? ラッキーだったね、チャトラぁ?」
カレンはアトリアの顔を見つめ軽くウインクをして見せた。その軽い雰囲気とは対照的に、アトリアは大きく頭を下げて両者にお礼の言葉を告げるのだった。
シャネイラは女子寮に立ち寄った段階で、元々の要件を果たしていた。カレンを引き連れ、アトリア、スピカ、ポラリスの3人に簡単な挨拶をして、女子寮を後にする。彼女たちの会話を遠目に見守っていたウェズンは、立ち去って行く2人の剣士に無言で深々と頭を下げて見送った。
国の事情に詳しくないスピカでも、さすがに「不死鳥シャネイラ」の名は知っていた。スピカとポラリスは思わぬ有名人との出会い、そして言葉を交わしたことに興奮を隠せない様子だ。
一方のアトリアは、カレンから手渡された写し紙を握った手を胸に当て、今一度、自身の心に秘めた思いを確かめるのだった。
『……シャネイラ様は私を覚えてくれていた。もっと――、もっと腕を磨かないと。あの方に認められるだけの魔法剣士に、必ずなってみせる』
セントラルの正門から出て行くシャネイラとカレン。普段ならシャネイラの周囲には護衛を務める剣士がいるのだが、今回は贅沢にもその代わりをカレンが務めているのだ。
もっとも、相手をあの「シャネイラ・ヘニクス」と知った上で刃を向ける者が果たしているのか疑問ではあるが……。
「ランさんとユージンの報告にあった魔法使いの1人がさっきいたスピカちゃんだよ? 魔導書狩りの件は聞かなくて本当によかったのかい?」
「セントラルがまだ完全には状況を把握しきれていません。まずは学校側からの報告を待ちましょう。我々はランギスから直接話を聞けば済むわけですから」
セントラルの3回生が遠征を終えたのは今日、すなわちスピカたち一行をランギスとユージンが見送ったのが数時間前の話なのだ。
「ちょっとばっかり学生には刺激の強い体験だったろうからねぇ? とりあえず、ランさんからきっちり話を聞くのがいいか」
「確証はありませんが、『魔導書狩り』はサーペントが裏で糸を引いていると言われています。エリクシルの件といい、なにか妙な動きが以前より活発になっている気配があります」
「そっちは私がもうちょい探りを入れるよ? ミラージュからの情報の受け取りも兼ねて、ね?」
「ええ、よろしくお願いします」
「それよりさ、全然話変わるんだけど――、シャネイラさ、もう仮面いらなくない? 素顔の方がいいと思うけどねぇ?」
カレンの問い掛けにシャネイラはほんの少しだけ口角を上げた。そして、視線を正面に向けたままで答えを返す。
「隠したいものがあるのですよ? この顔以外にもいろいろと――」
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