第98話 再会
「あの『王国最強』と名高いシャネイラ様よ?」
「仮面の下の素顔を初めて見ましたわ!」
「なんてお美しい方なのかしら? まるで妖精のようだわ!」
「お隣りの方は金獅子のカレン様? 初めてお目にかかるわね!」
一度は部屋に引っ込んだセントラル女子寮の学生たち、折を見て、遠目でシャネイラの姿を覗き見して騒ぎ出す。ただ、睨みを利かせるようにウェズンが一瞥すると、生徒たちは再び部屋へと戻っていくのだった。
「ポラリス、と言いましたか? あなたがアトリアと知り合いで助かりました」
シャネイラは、アトリアを連れて来てくれたポラリスにお礼の言葉をかける。当のポラリスは予想外の言葉に戸惑いうまく返事ができないでいた。彼女は校内を歩いている際、たまたまシャネイラとカレンの2人とすれ違い、声をかけられただけなのだ。
「……お目にかかれて光栄です。幼き日に誓いを立てて以来、シャネイラ様の元で働くに恥じない魔法剣士を志し、修行に励んでおります」
アトリアはシャネイラの前で深々と頭を下げてそう言った。
「シャネイラは時々、セントラルに顔を出してるからね? チャトラにちゃんと稽古つけてやる予定を立てたくて一緒に来たわけさ?」
「……わざわざお越しいただかなくても、私の方から伺いましたのに――」
シャネイラとカレン、アレクシア王国で非常に名の通った2人の剣士と言葉を交わすアトリアに驚きを隠せないポラリス。その横では、シャネイラに興味津々といった様子で見つめるスピカの姿があった。
「ポラリスと――、お隣りの可愛らしい子はアトリアのご友人ですか?」
「……はっ、はい! こっちは『スピカ』と言いまして、寮で相部屋の同級生です! ポラリスも私と同じ編入生でして仲良くしております」
「スピカ・コン・トレイルです! アトリアと一緒に魔法使いを目指して勉強してます!」
「ポっ…、ポラリス・ワトソンですぅ! 魔技師を志望しておりますです!」
話題を振られたと思ったスピカは、うるさいほど元気な声で自己紹介をした。それに釣られるようにしてポラリスも改めて彼女たちに名乗るのだった。
「……スピカ、お願いだからもう少し声量を下げて? あの、騒がしくして申し訳ございません」
アトリアはばつが悪そうにシャネイラとカレンに向かって頭を下げる。だが、当の2人は微笑みをたたえていた。
「あはは、スピカちゃんは相変わらず元気だねぇ?」
「はい! アトリアの剣術だったりポラリスの力には敵いませんが、元気だけならあたしが一番です!」
アトリアに続いて、ポラリスへの敬称も無意識に外して呼ぶスピカ。だが、ポラリスはその部分より、自分がまるで力持ちのように紹介されたことに驚いていた。
「ほう? 見かけからはあまり想像できませんが、ポラリスはそれほど力自慢なのですか?」
「……スピカ、ややこしい言い方しないで? 失礼致しました、シャネイラ様。あの、ポラリスは『ストレング』の魔法を扱えるのです。それで――」
アトリアの補足を聞きながら、照れくさそうにするポラリスとその横に立つスピカ。シャネイラは2人の顔を交互に見たあと、ひとつ息をついた。
「そういうことですか。力自慢の女性、と聞くと古い知り合いを思い出してしまうのですよ」
どこか遠い目をしてそう話すシャネイラ。彼女の横顔を見ながらカレンは不思議そうな顔をしていた。シャネイラ・ヘニクスは普段顔を隠しているため、元々表情の変化には気付けない。
ただ、同じ組織の幹部であるカレンは他の者と比べるとシャネイラのさまざまな表情を知っていた。だが、今の彼女のそれはカレンすら初めて見るような哀愁を感じさせるものだった。
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