第95話 旅の終わり

 スピカたちを襲った男たち4人、うち1人は絶命し、残り3人は手を厳重に拘束され、口も塞がれて町の警備隊が連行していった。彼らは後に王国の衛兵団へ引き渡される予定となっている。


 ランギスは魔法の写し紙を使って、現状の報告をセントラルとブレイヴ・ピラー双方に行っていた。

 彼の回復魔法によって、ベラトリクスの怪我の傷口は塞がっている。ただ、ランギス曰く、乱暴に動かすと傷口が開くかもしれないので数日安静が必要、とのことだった。


 宿に戻ったスピカたち一行は、ぐったりして各自ベッドに飛び込んだ。ユージンとランギスの2人も同じ宿に部屋をとっており、スピカたちがセントラルへ無事に帰るまで護衛を続けると決めている。


 彼ら2人は、宿の食堂にて、この町名産の蜂蜜酒を交わしながら今回の依頼と今日の出来事について話ていた。


「学校側の対処が早かったのでなんとかなりましたが、危ないところでしたね?」


「セントラルの情報を横流している人間がいないとできないやり方です。単なる金目当ての盗賊の仕業とは思えませんが、捕まえた奴らからどこまで聞き出せるでしょうか……」


「末端も末端の……、雇われ連中だと思いますから、あまり期待はできないと思いますよ? 背後には大きい組織めいた動きを感じますけどね?」


「『サーペント』……、ですか?」


 ランギスは食堂の照明に視線を移して、数秒考えた後に返事をした。


「今の段階ではなんとも……。ですが、いわゆる『魔導書狩り』の裏でサーペントが暗躍している噂はずっと以前からありますからね。奴らの動向を今はたしか、3番隊とカレンちゃんあたりが探ってるようですけど――」


「あの『カレン・リオンハート』も動いているのですか……」



 ユージンはかつてスガワラやブリジットと関わった一件で、カレンと一触即発の事態になった経験がある。

 裏の世界ではそれなりに名の通った剣士のユージン。その彼がカレンと相対した際、彼女の放つ気配にわずかながら気圧されたのだ。危険な世界で名を上げてきたユージンですら、カレンほどの威圧を放つ剣士には一度も出会っていなかった。


「金獅子のカレン、賢狼グロイツェル様、――そして不死鳥のマスター・シャネイラ、この3人が同じ集団に属している。つくづくブレイヴ・ピラーとは恐ろしい組織だと思いますよ」


「はっはっは! 僕もそう思います。一員の僕が言うのはおかしいかもしれませんけど、絶対に敵に回してはいけない組織ですよ?」


「まったく、同感です」




 翌朝、スピカたち一行は宿を出て城下町へ向かう駅馬車へ乗り込んだ。同じ便に乗ったユージンとランギスは、少し距離を置いて見守りながら、彼らがセントラルの校門をくぐるところまで見送るのだった。


 こうして、波瀾に満ちたスピカたち4人の遠征は終わりを迎えるのだった。

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