第88話 下山
スピカたちが山の8分どころ――、高山植物の生い茂る平原に辿り着くより少し前のこと。彼らが部屋をとっている宿でちょっとした騒ぎがあった。
曰く、城下町で「お尋ね者」となっている者がここらに逃げ込んだとの情報があり、城下から派遣された衛兵が宿泊客の確認をしていったのだ。
しかし、特に怪しい人物が訪れたり、泊まっている形跡はなく、衛兵たちは早々に引き上げていったという。
「あっれぇ……? おっかしいな?」
部屋の掃除を任されている若い男がすっとんきょうな声を上げていた。それをたまたま聞いていた同僚の女性が話しかける。
「どうしたんだい? 間の抜けた声を上げてさ?」
「いや……、隅の2部屋さ? お客さんが出た後、掃除してちゃんと鍵閉めたはずなんだよ。なのにさっきたまたま寄ったら扉が開いててさ……」
「魔法使いの子たちが泊まってる部屋よね? あの子たちはまだ戻ってないと思うけど、あんたが閉め忘れたんじゃないの?」
「いやいやいや! それだけは絶対ないって! お客の部屋の鍵閉め忘れたりしたらクビになるっての!」
「それならおかしいね? ちょっと前に来た衛兵さんたちにもあの部屋のお客は外出中って伝えたしね……、鍵も渡してないし――」
◆◆◆
平原で1時間程度、みんなで協力してたくさんお花を採取しました。
「みんなでお花摘みなんて、
「うわっ! すごい! ゼフィラ、器用ですね!」
彼女は白い花を編んで冠をつくっていました。あたしの頭に乗っけてくれます。
「筋肉女でも女らしい遊びしてたんだな?」
「おーい、スピカ、サイサリー? ベラトリクスこの辺で埋めていってもいいか?」
「4人で山に登って下山したら3人だった、か……。笑えないな、ベラトリクス?」
「うっせぇ、そろそろ十分な量集まったんじゃねえのか?」
あたしたちは各自で採取したお花を持ち寄ります。必要とされた量にはしっかり達していました。
山の平原はとても気持ち良くて、もう少しここにいたかったのですが、山の天気は急変したりすることもあるそうなので、下山の準備をします。
「これで下って宿に泊まって明日学校に帰ったらおしまいか? やっぱり楽勝だったな?」
「そうだね、誰かさんがお金を盗られたりしなかったら、もっと楽できただろうね?」
「違いない違いない。さてと、ちょっと名残惜しい場所だけど倍速で下っていくぜ」
「はい! 怪我だけはしないように最後まで気を抜かないようにしましょう!」
まだ陽がおちるにはずいぶんと時間があります。あたしは陽の光で輝く草原に一礼をして背を向けました。
下りは知っている道を辿るので迷いなく進めます。ゼフィラの言う通り、2倍くらいの速さで降りっていってる気がします。時々、視界に入る麓の町がどんどん近付いていってるのがわかります。
山登りで疲れていますので、早く宿に戻って汗を流したいですね!
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